
鍋ものの代表格、「水炊き」が今回のテーマ。具として欠かせないのが鶏肉ですが、煮るとかたくてパサパサ…あまりおいしくないと思っている人も少なくないようです。それどころか、本場・博多で道行く人に東京の水炊きを食べてもらうと大不評。一体なぜ?
そこで本場の水炊きを徹底的に調べてみると、鍋物の常識を覆す超驚きの調理法がありました! さらに、博多一流店のホロホロ鶏肉をご家庭でも簡単に味わえちゃう、とっておきの技も大発見! これまでの水炊きはもう食べられない!?
「巌流島水炊き決戦」
水炊き調理に自信のある4組に参加してもらい、鶏肉の美味しさを競ってもらいました。場所は、本州と九州の間に浮かぶ、巌流島(がんりゅうじま・山口県下関市)。
鶏肉を下ゆでして臭みをとる、肉を先に入れ煮えた時点で手早く野菜を入れる、野菜を先に煮て肉は後からできるだけ短時間で煮る……など、調理方法はさまざま。しかし、いざ試食してみると、どれもそれほど大きな違いはありませんでした。
そこへ博多の水炊き達人が登場。達人の作った鶏肉に、全員「全然違う!」「ふわふわしてる」と大絶賛。素人の水炊きと達人の博多風水炊き、一体何が違うのでしょうか?
旧ガッテン流は3分
味にそれほど大きな違いがなかった巌流島対決で、4組の調理法をもう一度見てみましょう。
下ゆでをするなど加熱時間が長かった2組は得点が低く、短かかった2組は高い得点を獲得していました。実は、「鶏肉は加熱時間が短いほどおいしい」ということは、ためしてガッテンでも以前に紹介していたのです。
沸騰したお湯に鶏肉を3分ほど入れておくと、肉の角が丸くなり最も美味しい状態となります。しかし、さらに煮続けると、収縮して肉汁が流出し、かたくパサパサになってしまうのです。
巌流島対決で優勝した組の調理法は、昔のガッテン流に最も近いものでした。しかし、後から来た達人の鶏肉とは格段の差があったのです。これ以上短く煮るのは無理なのに、達人はどのように鶏肉を調理したのでしょうか?
「博多の水炊きの秘密を忍者が探る!」
達人の店に潜入してその調理法を探ると、鶏肉をなんと45分間も煮込み、その間ひたすらアクを取っていました。達人が火をとめた隙に試食してみると、案の定少し硬くてパサパサ、巌流島で皆をうならせた鶏肉とは全くの別物だったのです。
これが絶品の肉になったのはなぜなのでしょうか? 実は、この後にまだ続きがあったのです。
達人が火を止めた後、開店まではさらに2時間ありました。その間、達人は何も手を加えませんでした。ところが、開店まぎわに再度食べてみるとホロッホロの柔らか肉に変身していたのです。
鶏肉の筋せんいは、加熱すると収縮するため、食べると硬く感じます。一度筋せんいが収縮すると、その状態から元に戻ることはありません。にもかかわらず、達人の肉がホロホロだったのはなぜなのでしょうか?
コラーゲンが肉を軟らかくする!?
肉がやわらかくなった理由は、筋せんいを覆っている膜の主成分である「コラーゲン」が溶けたからです。
コラーゲンは、水中で長時間、高い温度で加熱されると、分子の一部が水に溶ける性質を持っています。このため、コラーゲン分子が分解し、筋せんいを覆っていた膜に穴が開きます。すると、膜は破れやすくなり、筋せんいが簡単にほぐれるようになります。その結果、肉がやわらかくなるのです。

※3分程度の加熱で肉の角が丸くなるのを目安にしていた「旧ガッテン流」は、プリプリ感があってジューシーな鶏肉を楽しむための目安です。長時間加熱の新ガッテン流は、しっとりホロホロのとろけるような鶏肉を目指しました。どちらも美味しい鶏肉を食べることができますが、鶏肉の食感や味が全く違う状態になります。
なお、達人の鍋の温度変化を調べてみると、家庭で使う土鍋よりも保温効果が高いことがわかりました。そのため、火を止めた後も、鶏肉は煮こまれているのに近い状態となっていたと考えられます。
コラーゲンを効率よく溶かす方法
コラーゲンは、加熱温度が高いほど、また、加熱時間が長いほど、溶ける効果が高くなります。専門家によれば、特に80℃以上で溶ける量が多くなると考えられています。
注意していただきたいのは、水中でないとコラーゲンは溶けない、ということです。
また、鶏肉だけでなく、牛や豚でも同じようにやわらかくなります。本来かたい「スジ肉」でも煮込むとやわらかくなるのは、スジがコラーゲンを非常に多く含んでいるためです。
「昆布だし VS 鶏ガラだし どっちが美味?」
水炊きは、昆布だしが一般的ですが、博多の水炊きは鶏ガラでだしを取ります。両者を較べると、昆布だしのほうが、鶏肉のイノシン酸と昆布のグルタミン酸の相乗効果が発揮され、うま味が強くなります。ところが、博多と東京で実際に食べ比べ実験をしてみると、いずれも鶏ガラだしの鶏肉が圧勝! いったいどうして?
うま味の相乗効果って何?
人間が感じる「うま味」には、イノシン酸やグルタミン酸といった物質が強く影響を及ぼします。イノシン酸とグルタミン酸を同時に味わうと、足し算のようにうま味を感じるのではなく、掛け算のように飛躍的に強いうま味を感じるようになります。
肉類にはイノシン酸が多く、昆布にはグルタミン酸が多く含まれるため、昆布だしで煮た鶏肉スープのうま味を計測した結果、高い数値が示されました。
鶏ガラだしは、うま味だけでは昆布だしに負けてしまいますが、“コク”に着目すると、昆布だしよりはるかに多いことがわかりました。そして、そのコクは、コラーゲンが溶けて分解され、ゼラチンやアミノ酸のかたまりとなったものなどから生み出されるのです(ペプチドと呼ばれる)。

実際に鶏ガラで煮た鶏肉を食べてみると、昆布だしで煮たものよりはるかにやわらかいだけでなく、しっとりホロホロ。その理由として考えられるのは、鶏ガラだしに含まれるゼラチンです。
ゼラチンがさらに分解されてアミノ酸のかたまり(ペプチド)になり、それが筋せんい同士のくっつきあうのを防ぐため、せんいがより細かく分かれやすい状態になるためだと考えられます。
※ゼラチンは、コラーゲンの分子の一部が水に溶けたもののことです。
「究極のだし材を探せ! ゼラチン選手権」
家庭で簡単に博多風水炊きをつくるにはどうすればいいのか、調査してみました。すると、ゼラチンを短時間で多く引き出せる具材は、手羽先だということがわかりました。しかも、1時間煮たものを調べてみると、手羽先はコク成分、コラーゲンともに鶏ガラより多くなることがわかったのです。
手羽先をだし材に使った新ガッテン流で本場・博多っ子や達人に試食してもらったところ、大絶賛!

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