
団塊の世代の大量退職時代。第2の人生の生きがいに、料理を始める人たちが増えています。調理器具の中でも手軽で扱いやすいとの理由から重宝されているのがフライパンです。
ところが、そんなフライパンこそが、一番失敗しやすい調理器具でもあったのです。なかでも、フライパンで焼くのが難しい肉として「鶏肉」の存在が浮かびあがってきました。また、定番でありながら「野菜いため」もベチャベチャして困るというご意見をいただきました。
そこで、この2つの難題料理に注目し、科学の力で調べたところ、フライパンに関する常識を覆す新事実を発見しました。それさえわかれば、鶏肉も野菜いためも悩みが一挙に解決します。驚きのフライパン調理術の新ワザを大公開!
「鶏肉のソテー実験」
男女6人に協力してもらい、鶏肉のソテーを作ってもらいました。目指してもらったのは「皮パリッ、肉ジューシー」なプロ級の仕上がりです。ところが、皮がパリッとしたと思えば中がナマだったり、しっかり火を通せば、肉が硬くなり過ぎたり……。誰一人としてうまく焼くことができませんでした。
実は、かつてガッテンではお鍋にする時のおいしい鶏肉の状態の見分け方を「四角い形が丸くなった時が、内部温度が丁度良く食べ頃」とご紹介していました。
そこで、鶏肉のソテーでも形で見極めてみましたが、やはり中はまだナマで失敗でした。最後は内部温度計を使って、内部温度を丁度よい75℃で焼いてみましたが、肉はジューシーに仕上がったものの、今度は皮がパリッとしませんでした。
おいしい鶏肉のソテーを焼くためのポイントは、鶏肉の中に火が通った瞬間を見極めること。この瞬間を過ぎると、肉は硬くなる一方になってしまうのです。では、肉の内部にちょうど火が通ったタイミングを見極め、かつ、皮もパリッとさせるにはどうすればよいのでしょうか?
「想定外!ソテー意外な調理法」
ソテー作り実験でうまく焼けなかった6人の前に、突如怪しげな女性が登場。6枚の鶏肉を受け取ると、なんと6枚同時に焼きはじめたのです。ほとんど何もせずじっと鶏肉を見てるだけにもかかわらず、できた鶏肉ソテーは絶妙な火の通り。しかも、食べてみると「皮パリッ、肉ジューシー」の最高の仕上がりでした。
この女性がやっていた焼き方を6人にも見てもらったところ、見えないハズの鶏肉の内部の変化が「見える」との答えが返ってきました。一体どうしたことでしょうか?
ポイント1「フライパンにフタをしない」
おいしい鶏肉のソテーを焼くために見えていたのは、鶏肉の内部の色の変化でした。ナマの間は透明感のあるピンクですが、これが白色になった瞬間が、火が通った目安になります。どうすれば、肉の内部の色の変化が見えるのでしょうか?
肉の内部の色の変化をみるためのポイントの1つは、「フライパンにフタをしないこと」です。フタをすると、フライパン内の空気全体が温められ(対流熱)鶏肉の表面全体が白くなってしまい、内部の色の変化がわからなくなってしまうのです。
フタを外し、フライパンから肉に伝わる熱(伝導熱)だけで鶏肉を加熱すると、フライパンと接している肉の下側から徐々に火が通っていくのが見えるのです。
おいしい瞬間が目で見える!
実際に、鶏肉を伝導熱だけで加熱した場合の変化を見てみると、肉に火が通っていく様子がフライパン面に平行なラインとして現われ、火が通るに従って、ラインが上にのぼっていくのが確認できました。このラインが身の半分ほどに達したら肉を返し、上下のラインがドッキングした瞬間が、ちょうどよく肉に火が通った、最もおいしいタイミングなのです。
番組では、肉の色の変化を表すラインを、ジューシーなタイミングがわかるラインということで「ジューシーライン」と名づけました。
ただし、このジューシーラインが見えるためには、通常の調理法とは少し異なる新ワザが必要なのです。
「ジューシーラインが見えるシェフの技」
ポイント2「弱火」
フレンチのシェフに協力してもらい、ジューシーラインがキレイに見える鶏肉ソテーの調理法を徹底分析しました。
すると、2つ目の技は、炎の先がフライパンの底に付かない程度の弱火の火力だと判明しました。この弱火を維持し、ジューシーラインが身の半分ほどに達したのを目安に皮目をチェックします。パリッと香ばしい焼き色がついていたら返し、上下のジューシーラインが合体すれば完成です。見事に、皮がパリッと香ばしく、身は絶妙な火の通りになり、柔らかくジューシーに仕上がります。
実は、この見事な鶏肉ソテーを完成させるには、「弱火」の技の他に、もうひとつフライパン調理の常識では考えられない大技が必要なのです。
ポイント3「予熱なし」
ジューシーラインが見えるための大技とは、フライパンに「予熱をしないこと」です。予熱をすると、熱せられたフライパン面から光のような性質を持つ「放射熱」という熱が発生してしまいます。「放射熱」がある状態で鶏肉を置くと、肉の側面に早く火が通り、ジューシーラインが見えなくなってしまうのです。
予熱なしで調理すると、この「放射熱」の影響を極力少なくし、フライパンの底から直に伝わる「伝導熱」だけで調理することで、ジューシーラインを見えやすくできるのです。
身が最も厚い部分の側面に注目し、その部分の赤みがなくなるように調理することがポイントです。
「野菜が痛いめに 野菜いための弱点」
ここからは、フライパン調理のもうひとつの難題、ベチャベチャになりやすい野菜いために注目します。実は、野菜いためについては、過去にガッテンで紹介した鉄則があります。
過去にお伝えした「ガッテン流 野菜いための鉄則」
- 材料は150グラム以下
- 予熱1分20秒
- もやしとにんじんは40秒、キャベツは20秒
高温短時間で調理することで、ベチャベチャにならない野菜いためができます。ところが、それでもベチャベチャになってしまうというご意見をいただきました。そこで調べてみると、できあがりはシャキシャキおいしい「ガッテン流野菜いため」も、冷めるとベチャベチャになってしまうという難点があったのです。
冷めるとベチャベチャになる理由を電子顕微鏡で調べました。野菜の内部の細胞は、短時間加熱のために壊れずシャキシャキした状態を保っていましたが、野菜の表面に近い部分の細胞は壊れていることがわかりました。野菜が高温のフライパンに触れることで、細胞の内部の水分が一気に蒸気に変化し、細胞を壊してしまったのです。
その結果、できたてはシャキシャキとしているのですが、冷めて野菜が締まってくると、表面の壊れた細胞から水分が出て、ベチャベチャになってしまったのです。冷めてもベチャベチャにならない野菜いためを作るには、どうしたらいいのでしょうか?
「野菜炒め 驚きの新技」
2チームに分かれてもやし炒めを作り、食べ比べ実験をしました。黄色チームは、強火短時間で豪快に炒める従来通りのガッテン流。青色チームは、従来の方法よりも炒める音が静かな“新しい”調理法です。
NHKスタジオパークの来場者の方々にできたてを食べてもらったところ、黄色チームのもののほうがシャキシャキしていて風味が良いと、圧倒的に人気でした。
その1時間後、再び両チームのもやし炒めを相模湖周辺の観光客の方々に食べ比べをしてもらうと、黄色チームのものは「ベチャベチャ」「水っぽい」と言われたのに対して、青色チームのものは「シャキシャキしている」と人気でした。
そこで青色チームのもやし炒めのシャキシャキ感がいつまで続くのか、東京を出て2時間後~5時間半後まで食べ比べを続けましたが、最後まで「シャキシャキしておいしい」という評価は変わりませんでした。
スタジオゲストの方にも、冷めたもやし炒めを食べてもらったところ、「シャキシャキ」「全然水っぽくない」との感想でした。実はこのもやし炒めは、作ってから冷蔵庫で58時間保存しておいたものです。
青色チームの野菜いためを電子顕微鏡で見てみると、問題の「表面に近い細胞」は壊れておらず、細胞がきれいに折り畳まれたように重なっていることがわかりました。

いったいどうすれば、このような野菜いためになるのでしょうか? 実は、この野菜いための作り方は、先ほどの鶏肉ソテーの作り方とほとんど同じでした。

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