北海道の大自然(1) 空飛ぶ漁師 タカが魚に一直線!

第169回「北海道の大自然(1) 空飛ぶ漁師 タカが魚に一直線!」

2009/11/1(日)午後7時30分~

世界で唯一、水中に飛び込んで魚をとるタカ、ミサゴ。その狩りは豪快そのものです。空の高みから急降下で水中に突入、大きな水しぶきとともに、鋭い爪で巨大な魚をわしづかみにします。狩りには数々の熟練の技が駆使されています。まず、人間の5倍以上と言われる視力で、上空50mもの高さから、水中の魚を探し出します。続いて、ピタリと空中の一点に止まるホバリングで視線を固定し、正確に狙いを定めます。最後は一気の急降下。最高時速60kmまで加速して水中へ突入し、一瞬のうちに魚を捕らえます。獲物に向かって一直線のミサゴの姿はまるで、熟練の技で放たれた、一本の銛の様。名付けて、空飛ぶ漁師です。撮影の舞台は、北海道の積丹半島。海岸線に、高さ100mを超える断崖が連なり、日本海の荒波に浸食された巨大な岩の塔が林立します。春、ミサゴは南の地域から渡ってきて、巨大な岩の塔の頂上に巣を作ります。ミサゴの夫婦は、一夫一妻。毎年同じ相手と連れ添い、同じ巣で子育てをします。夫婦の間には、はっきり役割分担があります。お母さんの役目は卵やヒナを守ること、お父さんの役目は家族の食物をとることです。ミサゴの食物は、生まれた時からほぼ100%魚。育ち盛りのヒナを抱え、お父さんは、たくさんの魚をとるため苦労が絶えません。雨や風に見舞われると、水面が波立って魚が探せなくなることもあるし、条件の良い狩りの場所では、他のミサゴと鉢合わせしてケンカになることもあります。
番組では、子育てのため盛んに行われるミサゴの狩りを、日本で初めて、水中、陸上の両方から超スローモーション撮影でとらえることに成功。「空飛ぶ漁師」ミサゴの驚きの生態に迫りました。

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取材こぼれ話

北海道・積丹半島 編

「身近な鳥」ミサゴ

みなさん、ミサゴって、知ってましたか?水に飛び込んで魚をとる、ちょっと変わったタカです。ハヤブサやイヌワシは聞いたことがあるけど、ミサゴなんて初めて聞くって人もいるかもしれません。日本では動物園にも飼われていないので、野鳥愛好家のみなさんを除けば、あまり知られていません。 今回、取材で驚いたのは、実はこの鳥が、古くから日本人にとって、すごく身近な鳥だったことです。例えば、奈良時代に編まれた日本最古の和歌集「万葉集」の中に、ミサゴを詠んだ歌が6首もありました。一つご紹介しましょう。 みさご居る 沖の荒磯に寄する波 行方も知らず 吾が恋ふらくは (意味:みさごがいる沖の荒磯に寄せる波の行方が分からないように、私の恋の行方も分からない) 和歌の世界では「みさご居る」という言葉が、磯という言葉とあわせて使う決まり文句「枕詞(まくらことば)」なんです。磯と言えばミサゴがいる場所、という事が、人々にとって当たり前だったからこそ、決まり文句になったんですね。 また、江戸時代の俳句の世界でも、あの「奥の細道」に出てきます。 波越えぬ 契りありてや みさごの巣 (意味:岩の上にミサゴの巣がある、波が決して岩を越えないように、ミサゴもつがいの仲を堅く契って巣を作るのだろうか) ミサゴは、一生を通じて同じ相手と連れ添って子育てをする夫婦仲の良い鳥です。作者は、ミサゴの夫婦仲が良いことを知っていて、句に思いを託したんですね。 さらに、番組で詳しくご紹介しますが、江戸時代末期には、私たちが食べている寿司の起源が、ミサゴと深い関わりがあるっていう伝説が全国に広がっていました。その名残で、全国各地に、今でも「みさご寿司」という名前の寿司屋がたくさんあります。 ミサゴは、古い文献を調べるだけでも、とても楽しい鳥でした。

移り変わったミサゴと人のお付き合い

取材を通して生まれた疑問は、どうしてミサゴはこんなに身近だったのかってことです。答えは、フィールドでの撮影を通じて少しずつ分かってきました。実は、ミサゴはすごく人目につきやすい鳥だったんです。彼らが狩りをする場所は、浅い浜辺や干潟なので、釣りや海水浴、潮干狩りをする人々のすぐそばです。のんびり釣り糸をたれていると、いきなり「バシャーン」と大きな音がして、ふり向くと、水中に飛び込んだミサゴが魚を捕らえて飛んでいく、なんてことがよく起きるんです。 ミサゴは、巣があるのも、海岸べりの見晴らしの良い岩のてっぺんで、目立つ場所。毎年同じカップルが、同じ巣を使って子育てするので、一度巣を見つけた人は、数年に渡って観察できます。私も今回は、2年間に渡って同じ巣を観察しました。すると、だんだん愛着がわいてきて、ミサゴを歌や俳句に詠んだ人々の気持ちも分かる気がしました。 じゃあなぜ、多くの現代日本人にとってミサゴは身近な鳥じゃなくなってしまったんでしょう。ミサゴの数が減ったからでしょうか?かつての日本にはミサゴが好んで狩りする浅い湿地や干潟が、現在よりはるかに多くありましたから、ミサゴの数も多かったことでしょう。でも実はミサゴは、今でも北海道から沖縄まで、日本全国に、けっこうたくさん住んでいます。私たちが撮影した北海道の積丹半島はもちろんですが、例えば、工業地帯が連なる瀬戸内海沿岸も大規模な繁殖地として報告されています。ミサゴは「珍鳥」ではないんです。 どうやら、今の日本でミサゴが身近じゃない理由は、私たちが自然を見つめる眼差しに関係がある様です。ミサゴという鳥のことを良く知らない人が多いばかりに、トビなどと勘違いして、気づかないままミサゴを見過ごしているケースが多いのです。

あなたの町にもミサゴはいる!?

かく言う私も、これまでミサゴを見過ごしてきた一人です。実は、私の出身地は、ミサゴの大繁殖地、広島県の浜辺の町。でも、今回取材するまでは、そこにミサゴがいるってことすら知らなかったんです。 みなさん、ミサゴがどんな鳥か、ちょっと覚えてみませんか?今回の番組では、ミサゴの見た目の特徴から、すみかや行動まで、詳しくお伝えします。ミサゴがどんな鳥か分かったら、ぜひ、近所の水辺で探してみることをお勧めします。北海道から沖縄まで、磯、干潟、川の河口、時には養殖用の魚を飼っている池など、いろんな場所にミサゴはいます。私も、今度からは帰省のたびに、空を見上げてミサゴを探すのが、とても楽しみ。故郷の町の魅力を再発見できる期待感で、ワクワクしています。 さらに、ミサゴ探しの楽しみは、日本だけでなく、世界各地にも広げることができます。ミサゴは、世界のタカの中で最も広いすみかを持つ鳥。南極を除く全ての大陸に暮らしているんです。海外旅行に出かけた先で、ミサゴを見つけたら、きっと故郷の友に出会った様な感動が待っていますよ。