タコ!マイホームを持ち歩く

第166回「タコ!マイホームを持ち歩く」

2009/10/11(日)午後7時30分~

日本近海にすむメジロダコ。胴体と頭部を合わせても大人の握りこぶしほどしかなく、タコとしては小さい部類に入ります。砂地にすみ、貝殻を始め、ビンや空き缶、つぼなどをすみかにし、中に身を隠して暮らしています。驚くのは、メジロダコがこれらの「家」を肌身離さず持ち歩くこと。世界で唯一、マイホームを持ち歩くタコなのです。自分の体重の5倍もあるつぼも8本の足で器用に抱えて運びます。メジロダコが常に家を持ち歩く最大の理由は天敵対策。天敵のウツボが近づくと、家にすっぽりと身を隠し、貝殻で入り口にふたをします。安心安全、鉄壁のマイホームなのです。普通、砂地にすむタコは、砂に潜ったり、他の生物に擬態したりすることで身を守ります。メジロダコは砂潜りも擬態も得意でなかったため、安全な家を常に傍らに置いておくという方法で生き残って来たのです。ところが、タコの世界も住宅難は同じで、安全で頑丈な優良物件はまさに“引っ張りダコ”。優良物件をめぐり、タコ同士が取っ組み合う大げんかに発展することもあります。今回、和歌山県串本の海で、海底から陸上まで200メートルに及ぶケーブルを張り、タコの行動を24時間に渡って徹底観察しました。マイホームを持ち歩く、世にも奇妙なタコの新伝説。

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取材こぼれ話

和歌山県・串本の海 編

南紀串本発!タコ目撃情報

「和歌山県串本の海に、自分のマイホームを持ち歩く変なタコがいる」、そんな情報を聞いたのは、はや2年前のことでした。その名はメジロダコ。ダイバーが撮影した写真を見せてもらうと、確かに面白い。けれど、生態については分からないことだらけ。果たしてイチかバチかの撮影で番組として成立するのか、ディレクターとしては大きな不安がありましたが、とにかくやってみないことには始まらない!持ち前の超楽天的?な性格で串本へ向かいました。 串本へ到着して青ざめたこと、それは「タコがいない」という驚きの事実でした。 かろうじて見つけたのは1匹。今年は例年に比べて少ないという情報は入っていたのですが、「まあ取材時期になったら増えているだろう」という推測をしていたんです。その推測は見事にはずれ、ダイバー4人で懸命に捜索。メジロダコが暮らしているのは砂地です。家も砂の中に埋もれており、見つけるのは至難の技。それでも最終的には7匹のタコを発見することが出来ました‥(ホッ)。

メジロダコ!24時間徹底観察

メジロダコをいかに撮影するか、そこで行動観察も兼ねて私たちが取った作戦が、「24時間タコ観察」でした。タコの家の前にカメラを据え置き、そこから200メートルのケーブルを海底に引いて陸上のモニターで24時間に渡り交代で観察するというものです。眠たい目をこすりながら苦労した甲斐があり、メジロダコがマイホームを持って移動する場面を撮影することが出来ました。これでバッチリ!のはずでしたが、一つだけ問題が。このカメラ、ピント調整と録画のオンオフは陸上から出来るのですが、画角を上下左右に動かすことが出来ないんです。メジロダコが移動して画面から消えてしまうと、昼夜関わらず大急ぎでカメラマンが潜ってカメラの位置を修正しなければいけないんです。海から戻ってくる前に再びタコが移動、なんて悲惨なことも‥。

特殊器材でタコを追う!

たとえ水中リモコンカメラで、マイホームを持ち歩く様子を撮れたとしても、やはりカメラマンが接近して撮らないことにはなかなか番組としては成立しません。しかし、これまでの観察例から、メジロダコはかなり用心深いタコだと言われていました。そこで、持ち込んだのが「リブリーザー」という機材です。通常のダイビングでは、空気の入ったタンクを背負って呼吸し、吐いた空気は泡となって出て行きます。実は、この泡の動きや音が動物を警戒させるんです。「リブリーザー」は吐いた空気から二酸化炭素を取り除き、酸素をくわえて再び呼吸に使えるようにする器材です。これだと海中に空気を吐き出さずに済むので、音も泡も出すことがない、さらに普通のタンクに比べて長時間の潜水が可能、というワケです。「リブリーザー」が可能にした数々のお宝映像、番組でとくとご覧下さい。

我が道を行くメジロダコ

「一体何を考えているのかなあ?」、モニターに映し出されるメジロダコを見ているとそんな気分にさせられます。日がな一日マイホームに体を隠してぼ〜んやり、なんていう生活をのぞき見(?)していると、「あータコになってもいいかも‥」と思ったことも…。 でも、彼らの生活は本当にビクビクしっぱなしです。家から目だけを出しているのも、周囲を警戒してのこと。天敵に襲われないほどの巨体でもなく、ちょこまか動き回って物陰に隠れられるほど小さくもありません。そんな彼らが獲得したのが“マイホームを持ち歩く”という超ウルトラCの荒技でした。彼らが、マイホームを持ち歩く様子はコミカルでもあり、ほほえましくもあります。しかし、本当は生きるために必死なんです。決してその表情からうかがい知ることは出来ませんが‥。

地元の皆様!ありがとうございます

今回の撮影にあたり、地元の方には大変お世話になりました。 夜間潜ることを特別に許可してくれた漁協、撮影スタッフのために様々なサポートをしてくれた地元ダイビングサービスのスタッフのみなさん、モニターをのぞきに来てディレクターの暇つぶし(?)につき合ってくれた漁師の方々‥ この場を借りてお礼申し上げます。