熱烈!メスから求愛 イワヒバリ

第135回「熱烈!メスから求愛 イワヒバリ」

2009/2/8(日)午後7時30分~

今回の舞台は長野県と岐阜県の境にそびえる乗鞍岳。その山の頂にほど近い標高2700m余りの畳平は、バスなど公共の車で登ることができる日本一高い場所です。年間20万もの観光客が訪れる有名な観光スポットなんです。ここに、まだ雪が残る春先からやってくるのがイワヒバリ。大きさはスズメより一回り大きい程度。この時期、まるでヒバリのように美しい声を高山の岩場に響かせます。
この鳥、山々の頂付近でオス・メス数羽のグループをつくって繁殖します。その繁殖の方法は実に奇妙。求愛をするのはなんとメス、メスからオスへプロポーズするんです。しかも、1羽のメスがグループの全てのオスに求愛・交尾する「多夫多妻」という珍しい仕組み。メスたちは他のメスを邪魔して、オスを独占しようと賑やかなプロポーズ合戦と熾烈な争いとを繰り広げます。この奇妙なメスとオスの関係は子育ての時期にも続きます。ヒナが生まれると、今度は1羽のメスの巣にたくさんのオスが来て子育てを手伝うんです。しかし、それぞれの巣にオスがやってくる回数は平等ではありません。グループのメスには順位があり、順位が高いメスの巣にはたくさんのオスが頻繁にやってきますが、順位が低いメスは、オスにほとんど手伝ってもらえず、ヒナが飢え死にしてしまうこともあるんです。型破りな繁殖の方法で、高山の厳しい環境を生き抜くイワヒバリの新伝説。

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取材こぼれ話

乗鞍岳・畳平 編

日本一交通の便が良い高山

一面雪の山頂付近が今回の舞台。岐阜県と長野県の境にそびえる乗鞍岳の畳平、標高2700mもの高山帯です。ここを撮影地に選んだのには大きな理由があります。それは、交通の便が良いこと! こんなに高い場所なのに、なんと車で登ることが出来てしまいます。実は畳平は、バスやタクシーなど公共の交通機関で来ることができる日本で最も高い場所。毎年5月15日に山麓と畳平を結ぶ道路が開通すると、観光バスが押し寄せ、登山道には観光客が列をなす一大観光地なんです。

姿は地味でも面白い!主人公イワヒバリ

今回の主人公イワヒバリは、ここ畳平では比較的簡単に目にすることができる鳥で、畳平に行ったことがあるという方の多くは、きっと目にしているはず・・・。でも、残念ながら一般的にはあまり名前を知られていない鳥です。一見スズメのようで地味なためか、登山道をゆく観光客もこの鳥に興味を示す人はあまりいません。人気があるのはライチョウです。でもイワヒバリをじっくり見ないなんてもったいない! 鳥の世界でもとっても珍しい、奇妙な繁殖行動をする鳥なんです。 何が変わっているかというと、まず、その求愛方法。なんとイワヒバリの社会ではプロポーズするのは”メス”。メスからオス、が常なんです。しかもメスはプロポーズを連発! 1羽のメスが何羽ものオスに何度も求愛します。春の乗鞍岳では、イワヒバリのメスたちの熾烈なプロポーズ合戦が、人知れず繰り広げられているんです。 なぜイワヒバリのメスたちはこんなにも積極的で奇妙な行動をするのか・・・!? その謎をさぐるべく、私たちは高山での取材を開始することにしました。

高山はつらいよ

手軽にバスなどで登れるといっても、やはりここは標高2700mの高山帯。撮影を開始してすぐにその環境の厳しさを実感しました。まず、機材をしょって撮影場所まで登ると、たいした距離ではないのに激しい動悸と息切れ! 日頃の運動不足のせいだけではありません、空気が薄いのです。そして、厳しい寒さ。5月末、山麓ではTシャツ一枚の陽気でも、ここではダウンを着込み、怪しい目出し帽をかぶって、完全装備で雪の中にうずくまっての撮影でした。しかも天候は一日のうちにころころ変わります。日が照って暖かくなったと思っても、ひとたび天候が変わればこの通り。一気に気温が下がり、全てが凍り付きます。6月に入っても時に気温は氷点下、なかなか雪が消えることのない、厳しい環境なんです。実はこの厳しい環境がイワヒバリの奇妙な行動と深く関わりがあるんですが、詳しくは番組で。

恋の舞台は険しい岩場

そんな厳しい高山の岩場で、イワヒバリの恋のドラマが繰り広げられます。撮影地・畳平では比較的簡単に”目にする”ことはできる鳥なので、撮影もそこそこ順調にいくのでは・・・というほのかな期待を抱いて撮影スタート。早朝からたっぷり着込み、岩場を見渡せるポイントにカメラを構えました。ところが・・・・”イワ”ヒバリはその名の通り、岩場を自由自在に飛んだり、跳ねたり、走ったり。そしてところかまわずプロポーズが始まります。たとえ肉眼で見られても、双眼鏡で追いかけられたとしても、大きな望遠レンズを取り付けたカメラでファインダーにおさめ、ピントをあわせて撮影するのは至難のワザ! しかもイワヒバリの羽の色、周囲の岩の色に実に見事にとけ込んでしまうのです。小さい、動きが早い、しかも保護色・・・まさにカメラマン泣かせの鳥でした。

そして、さらなる難関は子育ての撮影でした。賑やかなプロポーズ合戦が下火になるとそろそろ産卵の時期、メスは岩の隙間に巣を作っているはずなのですが、そもそもあたり一面が岩だらけ、隙間だらけ。どこに巣があるのか全く見当がつかないのです。しかし、巣を見つけなくては番組が成り立ちません!決死の思いで巣探しを始めました。 その作戦はといえば・・・「ひたすらメスを観察する」という非常に地道なもの。抱卵が始まっても、メスは必ず食事のために外に姿をあらわします。そこで、早朝から日暮れまで、岩場に座ってひたすら観察し、メスが飛び去る方向をチェックしました。ある程度方向がつかめたら、メスが飛び去った方角へ少し観察位置を移動してまた観察・・・これを繰り返し、次第に巣がありそうな岩場の範囲を狭めて行ったのです。簡単そうにも聞こえますが、巣があるのは本当に小さな岩の隙間。中には「こんなところに空間が?」と思えるほどの狭い岩の割れ目、という巣もありました。ひたすら観察を続け、最後の最後はカンで勝負! こうして2週間ほどかけて、お目当てのメスたちの巣を探し当てることができました。そして奇妙なプロポーズ合戦に続く、不思議な子育ての様子も撮影することに成功したんです。(※一帯は国立公園特別保護地区のため、遊歩道以外は立ち入り禁止です。今回は特別の許可を頂いて撮影しています。)

火山からの贈り物

巣の捜索を続けるうちに、畳平を囲む山々には奇妙な形の岩が多いことに気づきました。例えばこんな風に見事な割れ目が入っていたりするんです。そこで独特の形をした岩には勝手に名前をつけて、カメラマンにお目当てのイワヒバリの居場所を伝えるのに活用していました。 実は乗鞍岳はいくつもの火山があつまった複合火山で、この一風変わった岩たち、全て溶岩なんです。溶岩が冷えて固まるときに亀裂ができたり、溶岩に含まれていたガスが出たあとの穴がぼこぼこと残ったり、それで様々な表情をした岩があるというわけだったのです。それにしてもびっくりしたのは生命のたくましさ。岩の隙間の恩恵を受けているのはイワヒバリだけじゃありませんでした。こんな風に、植物たちも巧みに利用していたんです。

識別個体は1500羽! 地道な研究から驚きの真実が

今回の撮影は、乗鞍岳で長年イワヒバリを研究している上越教育大学の中村雅彦教授にご協力を頂きました。番組に登場するイワヒバリたちは、脚に小さいカラフルな足輪がつけられていますが、中村先生はこの足輪の色の組み合わせで1羽ずつイワヒバリの個体を識別し、調査をしています。そもそもイワヒバリは外見上オス・メスの区別すらつきにくい鳥で、足輪などの目印無しに特定の1羽を追いかけることは不可能です。この足輪と先生のデータの蓄積があったからこそ、今回、お目当てのメスやオスを追跡して撮影し、イワヒバリの繁殖の様子をつぶさに取材することができたのです。 中村先生が今までに足輪をつけ、調査したイワヒバリは歴代合計でなんと1500羽以上!その細かい作業を思うと気が遠くなるような数字ですが、こうして一羽一羽を個体識別し、その行動を詳細に観察することによって、イワヒバリの奇妙な繁殖の仕組みが一つ一つ明らかにされてきたのです。中村先生はイワヒバリ研究のために乗鞍岳に通い続けてすでに20年! それでも先生曰く、まだまだ興味のつきないとっておきの面白い鳥、なのだそうです。 こうして今回、イワヒバリのメスたちの恋の季節から子育てまでに密着、その奇妙な繁殖行動の謎に迫ることができました。厳しい高山の環境の中で無事にヒナを育て上げようとするたくましいイワヒバリたちの姿を、是非ご覧下さい。