おみごと!石に化けた魚

第073回「おみごと!石に化けた魚」

2007/10/7(日)午後7時30分~

熊野の深い山々に源を発する日本屈指の清流、和歌山県古座川。この清流には、アユを追い、アユとともに生きてきた魚がいます。日本固有の魚で、カジカの仲間、アユカケです。
アユカケは、ダムや堰(せき)がある川では生きていくことができないため、清流の代名詞のような存在。もともとは日本全国に生息しましたが、今では「幻の魚」とまで言われるようになりました。このアユカケ、探すだけでもひと苦労します。川底で暮らす魚なのですが、ふだん、石とそっくりに化けているため、なかなか見つけることができないのです。アユカケは、泳ぎがあまり得意な魚ではないため、できるだけ動かず石に化けて、獲物を捕らえて生きてきました。番組では、このアユカケの「石化け」に注目しました。すると、驚きの新事実が明らかに! なんと、アユカケは石の色に合わせて体の色を変えられる上、石になりきるためになんと息まで止められることが判明! これは、川や湖に棲(す)む魚の例としては報告されていない大スクープです。
徹底的に石になりきることで、アユなどの獲物を捕らえてきたアユカケ。番組では、石になりながらたった一匹で懸命に子育てをするお父さんアユカケの姿、そして赤ちゃんアユカケの旅立ちまでを追い、清流で徹底的に石に化けるアユカケの驚きの生態に迫りました。

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取材こぼれ話

和歌山・古座川 編

舞台は、日本有数の清流・古座川

今回の舞台は、本州最南端、紀伊半島南部を流れる和歌山県の古座川です。 皆さんは「熊野」と呼ばれる地域をご存じですか?熊野とは、都から遠く離れていて、あまりにも「おクマった」地域であることから、「熊野(クマノ)」と呼ばれるようになったそうです。その名の通り、熊野は今も手つかずの自然が残る秘境です。 その熊野の山々をぬうように流れる川が、今回の番組の舞台、古座川です。さすが秘境を流れる川だけあって、その美しさは驚くほど!アユカケは、この清流で生き抜いてきた珍しい魚なんです。

ホンマかいな!?アユカケの面白伝説

ところで、皆さんは「アユカケ」という魚をご存じでしたか?私も当初はアユカケと聞いて、「アユの仲間かな?」と思っていたくらい。ほとんど知りませんでした。 でも、調べていくうちに、アユカケはカジカの仲間で、日本にしかいない魚。しかも、「アユを好んで食べる」と言われているではありませんか!私は、次から次へと興味がわき、取材してみたいと思うようになった訳です。 興味の極めつきは、このアユカケという名前にありました。この名前、なんと、アユを捕まえる時のある言い伝えに因んでつけられたものだったんです。 それは、「えらぶたにある鋭いトゲでアユを引っかけて食べる」、というモノなんです。「ホンマかいな!!」と、最初、関西人の私はかなり疑ってかかっていました。 ところが、取材した古座川流域の人びとは、口々に「ワシも見たで!」を連呼するではありませんか!!しかも、この伝説、あの有名な釣り漫画「釣りキチ三平」にも描かれているんです。 番組では、著者の矢口高雄さんにもその真相を確かめに行きました。すると、オドロキの事実が明らかになったのです。

主人公・アユカケ探しに四苦八苦

とはいえ、アユカケに出会うのには相当苦労しました。なんせ、相手は「石化け」のプロです。「いる」気配がしていても、本当に見つけることができないんです。 自然番組を撮り続けて30年、潜水歴25年にもなるベテランカメラマンでさえも、ロケが始まって2日間は、空振り続き。全く見つけられませんでした。 結局、この苦労がそのまま番組の構成にも生かされることになったのでした。皆さんも、画面を通して、アユカケの「忍者ぶり」をご堪能ください。すぐに見つけられたら、スゴイです。

石化けに命をかける!

ジャガイモのように大きな頭と”オバケのQ太郎”のようなかわいらしい表情。 アユカケは、とても愛嬌者なのですが、何せ石に化けてアユなどの獲物をひたすら待つのが彼らの流儀。行動に派手さはありません。はたまた、ライオンやゾウのような迫力もありません。 ですから、どうすれば、皆さんにアユカケの魅了を最大限に伝えつつも、楽しくて親しみをもってもらえる番組にできるのか、悩みました。 しかし、観察を続ける中で、アユカケは石になるために、血のにじむような努力をしていることがわかってきました。反対に、「石になりきらなければ、泳ぎがあまり得意ではないアユカケは生きていけないのだ」、ということがわかった時、とにかく、石になりきるための工夫を皆さんにご紹介しようと、決めました。その妙技、特とご覧下さい。きっと、「へぇー」の連続ですよ!!

清流よ、いつまでも!

アユカケは、春から夏にかけて川の中上流域を目指してそ上します。 しかし、アユカケはアユのように泳力が優れているわけではありません。それに、ハゼ類のように吸盤状になった胸びれを持っているわけでもありません。 ですから、せきやダムなど少しでも川に段差があれば川をのぼることができません。のぼることができないと、育ち、繁殖する力もなくなるため、やがては絶滅する運命をたどります。アユカケは戦前まで、本州から九州にかけての広い範囲の川で見られる魚でした。 しかし、戦後の急激な河川改修工事の影響を受けて、今や絶滅の危機に瀕しようとしています。アユカケは、日本の川本来の姿を今に止める川でしか、ほぼ見ることができなくなっているのです。 逆に、アユカケがいる川は、日本の川本来の包容力を持つ豊かな川だとも言えます。古座川だけでなく、いつまでも、アユカケがすんでいられる川が日本に残っていくことを願ってやみません。