札幌 生命よぶ校庭の巨木

第050回「札幌 生命よぶ校庭の巨木」

2007/4/22(日)午後7時30分~

札幌市内の中学校に残された1本の緑と、そのまわりに復活した緑が生んだ新伝説。35年前に開校した市立真駒内曙中学校では、当時、校庭のまん真ん中にあった、大きな木が残されました。樹齢300年の巨木「ハルニレ」で、場所が場所だけに、部活動や体育の授業で邪魔になります。しかし、当時の校長は「生徒の心のシンボルになる」と切らずに残しました。最近、この木に、かわいらしい動物たちがやってくるようになりました。
夏、ハルニレの大きな洞のひとつで、15羽のオシドリのヒナが、巣立ちました。冬は、小さな洞にエゾモモンガのメスがすみつきました。モモンガは冬が繁殖期だ。メスに誘われてオスもやってきて、恋のバトルを校庭で繰り広げました。
中学校周辺は、明治時代以来の開発で原生林が切り開かれたところですが、最近は、街路樹や公園など、都市の樹木が育ってきました。郊外の山と街の学校が緑の回廊で結ばれたことによって、生き物たちがハルニレを目指して集まるようになったのです。学校のすぐ横には、車が激しく行きかう国道がありますが、生き物は命がけで往来します。この木の住み心地がとてもいいのです。
都会育ちの中学生たちは、初めて見る動物たちに驚き、目を輝かせます。都市に残した緑と、作った緑が生んだ、ちょっといい話です。

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取材こぼれ話

札幌 編

野球部35年の憂うつ

「やった! ホームランかと思ったら、木にあたったんです」(野球部OB・40代)。 35年前に開校したこの学校の野球部には「ハルニレの木にあたると、エンタイトルツーベース」という特別ルールがあります。校庭の真ん中、ちょうどセンターの守備位置にあるハルニレは、代々の野球部員にとっては、邪魔な木です。 「パスが通ったと思ったら、木に当たって相手にとられ、ピンチになることもある」(サッカー部員・中2)。 右の写真をごらんください。サッカー部にとっても、ハルニレは邪魔者です。 「理科の薬品をかけて枯らしちゃおうなんて生徒たちは言っていた」(元野球部顧問)。育ち盛りの中学生にとって、体育や部活動で使う校庭は、とても大事なはず、校庭のまんなかにあるハルニレが、よくもまあ残されたものです。それでも今、卒業生の方々にお話をうかがうと、ほとんどの人が「心に残る木」だと語ります。

街の奇跡を見つけた!

校庭のハルニレに動物が来ているのを知ったのは、2年前のゴールデンウィークです。写真家の方から、連絡をいただいたんです。さっそく現場に向かうと……、いました。葉が開く前の冬芽を食べています。街なかにぽつんと残された1本の木に、森のアイドル・モモンガがやってきていたんです。ここは人口200万近い、、日本で5番目の大都市、札幌です。まさに街の奇跡を見る思いでした。しかし奇跡はつかの間、1週間だけでした。その後は全く姿を見せませんでした。一斉に芽吹いた森の若葉を食べるようになったからかもしれません。 6月中旬、今度は、オシドリが子育てをしているとの知らせが入りました。オシドリは本来、山の中で暮らし、その子育ての様子はほとんど知られていません。半信半疑で向かいましたが、早朝3時半、メスが大きな洞から出てきました。こんなところで子育てしているとしても、どうやってヒナが無事に巣立つんでしょうか。 北国の夏は、日照時間がとても長く、朝3時から夜7時まで毎日、洞を見続けました。1週間ほどたった日の朝9時、ヒナが巣立ちました。それはそれは、びっくりすることばかりでした。撮りのがさぬようにと緊張し、カメラを操作する手に汗がにじみました。ハルニレが校庭の真ん中に残されて33年、そこに生きものたちが戻ったことを実感した出来事でした。

都会の撮影は意外と難しい

昨年12月、ハルニレにモモンガが戻ってきました。本格的な撮影を再開しましたが、最初校庭に現れたのは「モモ」と名づけたメス一匹だけ。モモがいなくなってしまえば、番組は作れません。モモンガは警戒心の強い動物ともききます。ライトを使わず、街灯りを頼りに、高感度カメラで撮影することにしました。幸運なことに、モモはこの冬のすみかをハルニレの洞に決めてくれました。 毎日の撮影で一番大変だったのは、モモンガを見失わないことです。体長15センチほどの小さな体です。一度、姿を見失ったらもう一度見つけることは、きわめて困難です。しかも、モモンガが巣穴から出て行動する時間は、日の出前と日没後の2回でそれぞれ一時間たらず、そして天気が悪いと出てきません。そこで、スタッフ4人で分業制をとり、観察場所を分担しました。まず、1人目がハルニレの巣穴を出る場所を確認、2人目が校庭のハルニレからの滑空を追い、3人目はモモンガが食事をするポプラの木周辺を担当しました。4人目のカメラマンは、他の3人の無線連絡を聞いて撮影しました。特に大変なのが巣穴出入りチェック役(右側の写真)です。出巣時刻はまちまちなので、氷点下の寒さの中、3時間以上じっと座って、ピンポン玉サイズの巣穴を見続けなくてはなりません。実はこの分業体制は、ハルニレに2匹目、3匹目(共にオス)が訪れるようになって威力を発揮しました。モモンガたちの恋の駆け引きの様子までわかってきたんです。

生徒もビックリ! 校庭のモモンガ

実は先生や生徒たちは、この動物たちの存在を、ほとんど知りませんでした。それもそのはず、動物たちは生徒たちがいない時間帯に活動していたんです。オシドリは夏の朝4時すぎと夕方の6時すぎに、母鳥がハルニレを飛び立ち、どこかで食事をして1時間後に一気に戻るだけです。巣立ちの日は、朝9時ごろ校庭を横断していましたが、その日は皆教室で授業を受けていました。モモンガにいたっては、オシドリ以上に暗くならないと出てきません。 そこで、取材用のモニターを生徒たちに見せてみました。すると大興奮、モニターでは飽き足らず、双眼鏡を奪い合って、モモンガを探していました。そんな純粋さに私たちも心洗われたんです。と同時に一安心しました。暗くなると必ず学校に現れる、とても?怪しい?私たちの撮影の目的を実感してもらえたからなんです。

老木の底力

取材の最後に教室の窓から見えるハルニレの木を撮影しました。これだけを見ると決して立派な木には思えません。現役の生徒たちが、普段とりたてて意識している存在でもありません。しかし、どっしりと立っていることで親しまれ、残っていたことで生命の営みをつないでいました。改めて老木の底力を実感しました。