子どもオオカミ 大人への第一歩

第177回「子どもオオカミ 大人への第一歩」

2010/1/10(日)午後7時30分~

深い森に暮らし、めったに姿を現さないシンリンオオカミ。体長は1メートルほどで、父と母を中心とした家族の群れで行動しています。普段は、森の中でシカなどの狩りを行っていますが、そのくわしい生態はほとんど観察されたことがありません。ところが、カナダ西部に位置するブリティッシュコロンビア州の太平洋岸では、秋になると開けた河口に姿を見せることが分かってきました。オオカミたちの狙いは、産卵のため川をそ上してくるマスやサケです。オオカミたちは、逃げ惑う魚をクマも顔負けの早業で次々としとめるのです。研究者の最新の調査によると、この地域に暮らすオオカミは、秋の食べものうち半分ほどをマスやサケに依存していることも分かってきました。さらにこの魚取りは、特に子どもオオカミにとって初めて挑む狩りであることも明らかになっています。子どもたちは、失敗を繰り返しながら魚を追いかけ、立派なハンターとなるための技を学んでいくのです。ところが、河口にはマスやサケを狙ってヒグマもしばしば姿を現します。実はヒグマはオオカミにとって最大の天敵であり、子どもを襲うこともあるのです。今回、取材チームはわが子を守ろうと巨大なヒグマと戦う母オオカミの貴重な姿を撮影することに成功しました。母オオカミは、俊敏な攻撃と防御でヒグマを翻弄(ほんろう)し、圧倒的な気迫で子どもを守りきったのです。番組では、オオカミの大家族に肉薄し、子どもたちが大人になっていく過渡期に厳しい大人社会のオキテを学んでいく姿と、その成長を支える家族を見つめていきます。

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取材こぼれ話

カナダ・セントラルコースト 編

秘密のベールに包まれたオオカミ

オオカミと聞くと、グリム童話の「赤ずきん」などで描かれているような、“ずる賢くてどう猛で恐ろしい動物”というイメージを持っている方がとても多いと思います。でも、実際は人間に対して危害を加えることはほとんどありません。また、とても警戒心が強く撮影が難しいことから、これまでNHKの取材クルーが散々苦しめられてきた生きもののナンバー1の座に君臨しています。出発前、局内で先輩カメラマンたちに取材したところ「俺は1ヶ月取材して1カット!もう勘弁して・・・!」とか「400メートル以上は近づけないよ。まあ、頑張って・・・・」など、とても励まされる貴重なアドバイスをたくさん頂きました。果たして、オオカミの暮らしぶりにどこまで迫ることができるのか? 9月上旬、大いなる不安を胸に、カナダ・バンクーバーの北西500キロに位置するセントラルコースト地方に向かいました。

遠ぼえ聞こえど姿は見せず

セントラルコースト地方は、深い森に覆われたフィヨルド地形が延々と続いています。 しかも、ひとつのオオカミ家族の縄張りは、大きいと20キロ四方以上!!私たちは、ある家族の縄張りに的を絞り、1週間かけて出没しそうな場所を探しあてました。そして、ようやく撮影開始。夜明けから日没まで、雨が降ろうが風が吹こうがひたすら待ち続けました。ところが、1日に何度か遠ぼえが聞こえるのですが、なかなか姿を現しません。本当に出てくるのか、胃が痛くなります。生きもの番組のスタッフは、胃が丈夫でないと務まらないんです。

オオカミ出現!! ところが・・・

オオカミがようやく姿を現したのは、カナダに到着して10日以上たってからです。警戒心が強く、さらに、人間の“におい”にも敏感だと研究者からのアドバイスを受け、遠く離れた風下から撮影を開始しました。そこで活躍したのは、ハイビジョンカメラに取り付けた超望遠レンズです。オオカミが私たちを気にしない距離は、200〜300メートル。写真を比べて頂くと良く分かると思うのですが、肉眼はもちろん、普通の双眼鏡でも米粒ぐらいにしか確認できないくらいの遠さです。でも、距離を保って撮影することで、オオカミ家族の自然な振る舞いを撮影することができたんです。 ところがある日、撮影中に風向きが急変。あまりお風呂にも入ることができないので、においは大丈夫かな?と思っていたら、あっという間にオオカミたちは森の中へ消えてしまいました。さすがにおいに敏感なオオカミです。そして大変なことに、翌日から全く姿を見せなくなってしまったのです。

再びオオカミを捜索 そして・・・!? 

ほんの少し油断したばっかりに、順調だった撮影は一から出直し・・・。結局、オオカミ家族が出没するポイントにめぐり当たるまで、またもや1週間もかかってしまいました。でも、胃の痛みを我慢したかいもあって、オオカミのマス取り、そして母オオカミとヒグマとの戦いなど、研究者も驚きの映像を最後はなんとか撮影することができました。オオカミの撮影、いや、自然番組の撮影は、わずかな望みを捨てずに、辛抱強く行うことしかないんだな、とスタッフ一同つくづく痛感しました。

オオカミの未来は?

オオカミは、日本ではおよそ100年前に絶滅してしまいました。もし、日本にオオカミが生き残っていたら、例えば知床なんかでマスやサケを取ったり、ヒグマと戦ったりというスペクタクルを私たちに見せてくれたのかもしれません。 実は、今回取材したカナダ西海岸でも、国立公園などの保護地域を除いて、オオカミという種としては保護されていません。家畜を襲ってしまうという被害もあるからということなのですが・・・。深い森で気高く生きるオオカミの暮らしが、これからもずっと続いていくことを願うばかりです。