シリーズ アフリカの珍獣(1)剣山!ヤマアラシ

第150回「シリーズ アフリカの珍獣(1)剣山!ヤマアラシ」

2009/5/24(日)午後7時30分~

アフリカの珍獣シリーズ第1回は、サバンナの周りに広がる森に暮らすタテガミヤマアラシが登場します。ネズミの仲間ですが、大きさは柴犬ほどもあります。最大の特徴は背中をびっしりと覆っている毛。なんとアルミ缶を簡単に貫けるほどの硬さです。その姿は、まるで「剣山」を背負っているようなものです。さらに、気性の激しさもお墨付きです。
毛を逆立てて突撃したり、尻尾を激しく振って音を立てたり、後ろ足で地面を蹴って威嚇したり。ヤマアラシは数々のワザでラーテル(イタチの仲間)やシベット(ジャコウネコの仲間)など、同じ森に暮らすライバルたちを追い払ってしまいます。ときには、襲いかかるライオンやハイエナなどの猛獣を撃退することもあるのです。
ただし、無敵にみえるヤマアラシにも実は弱点があります。針のような毛が生えていない頭部です。ライオンの大群などに囲まれるとほとんど勝ち目はありません。このとき家族で結束することでピンチを切り抜けます。弱点の頭部を寄せ合わせ、敵に背中の剣の山を向けることで守りきるのです。今回、超高感度カメラや赤外線カメラなど特殊な撮影機器を駆使することで、真夜中、ヤマアラシの夫婦や親子がスキンシップをはかったり、敵と対決したりする貴重なシーンをとらえました。さらに、生まれながらに針だらけの赤ちゃんの姿も紹介します。

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取材こぼれ話

東アフリカ 編

強敵ヤマアラシ探しの始まり

本当に長かった…。取材を初めてから放送が出るまでに、なんと6年もかかったんです。全身に針のような毛をまとう「タテガミヤマアラシ」。日本の動物園で間近で見て「奇妙な姿だな〜」と驚いたのが2003年5月のことでしたから、「ふ〜、やっと放送にこぎ着けた…」というのが制作者としての率直な感想です。この取材ウラ日記では、どうしてそんなに時間がかかってしまったのかを豊富な写真でご紹介しましょう。

何はともあれ巣穴を探せ!(昼)

時間がかかった最大の理由は、取材してしばらくの間は、「撮影は無理だ」との現地情報しか得られなかったからです。知名度とは裏腹に、野生のヤマアラシの撮影は難易度が相当に高かったんです。 (1)夜行性のため夜しか姿を見せない (2)昼間は巣穴の奥の方に隠れていて出てこない (3)嗅覚や聴覚が優れていて警戒心が強く、人前には姿を現さない 姿が見えなければ、もちろん撮影できません。ヤマアラシの主要な生息地である東アフリカの国々から情報をただ集めているたけで5年が過ぎ去っていきました。 でも、撮影の難しさが骨身にしみたのは、ヤマアラシの目撃情報が多数寄せられた現場の森に入ってからでした。野生のヤマアラシは本当に見つからないんです。ヤマアラシは夜行性ですが、夜は恐くて人間の方が出歩けません。森でゾウやヒョウに出会ったら、かなり危険だからです。ですから、日中の明るいうちにヤマアラシの巣穴を探し出すことが、私たちの最初の仕事となりました。ウォーキング・サファリという特別な許可を取り、ひたすらサバンナの草原や森を歩き回りました。安全のため銃を持ったレンジャーについてもらっては歩き、現地に詳しいマサイに案内してもらっては歩きました。 巣穴探しの方法は、ヤマアラシが歩き回った手がかりを見つけることです。糞、足あと、尻尾が地面をすったあと。針のような毛(抜け毛)でも見つかれば最高の手がかりです。新鮮なものであればあるほど、近くに巣穴がある可能性が高まります。手がかりを見つけたら、今度はヤマアラシの通り道「獣道」をひたすらたどっていきます。うまく行けば巣穴まで私たちを導いてくれます。でも、獣道かなと思って歩いていくと、いつの間にか同じ場所に戻ってきてしまいます。キツネやタヌキに化かされた気分です。実は、取材を始めた頃、獣道だと思っていたのは「ゾウ道」であることがほとんでした。ゾウ道は、ゾウが食べ物の草や木を求めて、うろうろと歩き回るときにできた踏み跡です。見通しもよく非常に歩きやすいのですが、道はどこに行くのか決まっているわけもなく、もちろんヤマアラシの巣穴にはたどりけません。ちなみに、野生のゾウは本当に恐いんですよ。なんといってもあの巨体。大きな足で押しつぶされたり、大きな鼻で突き飛ばされたりでもしたら、非常に危険です。森を歩いていて、「ぱお〜」といううなり声や、「バキバキバキ…」と木が倒される音が聞こえてきたら、「私は忍者かも?」と思ってしまうくらいに静かに素早く逃げ去ったものでした。

巣穴の中には何がいる?(昼)

運よく巣穴を見つけても、ヤマアラシが必ずいるとは限りません。まずは周りの様子をまるで探偵のように調べます。新しい足あとや、新しく抜けた毛が見つかればしめたものです。夜行性のヤマアラシは日中、穴の奥で休んでいることが多いからです。ゆっくりと忍び足で穴に近づき、こっそり中をのぞきこみます。とはいえ穴の奥行きは浅くても3メートル、10メートルをこえそうな深いものもあり、なかなか奥まで見えません。さらに、アフリカ赤道直下の太陽のもと、周りは強烈な日差しで明るすぎます。穴の入り口に頭をすっぽりつっこんで、懐中電灯で照らしながら、コワゴワ様子をうかがいます。ときには、巣穴の主がヤマアラシでなく、イボイノシシのこともあり、猛烈な勢いで飛び出してくることもあったので要注意。さらに、ひんやりとした穴の中には、サソリなど小さな強敵もひそんでいます。指の爪ほどの大きさもある巨大ダニには困りました。ヤマアラシをはじめ獣が利用する巣穴の入り口には、必ずといっていいほどダニが無数にいて、穴を出入りする動物にとりつくチャンスを今か今かと狙っています。私たち取材班はまんまとその餌食に…。シャワーを浴びている時に、「あれっ、こんなところにホクロなんてあったっけ?」とよく見たら「ダニが血を吸ってぱんぱんに膨れていた」なんてこともしばしば。下着の中にダニをみつけたときの恐怖といったらありませんでした。 結局、穴の奥をのぞくことで、ヤマアラシを見つけられたことはありませんでした。そこで次なる作戦はトラップ、つまり「ワナ」作戦。といっても、いたってシンプルなもの。レンジャーの指導のもと、穴に細い棒や草を1〜2本たてかけます。翌日、再び穴を訪れて、倒れているかどうかで、中にどんな生き物がいるかを予想しようというのです。棒が穴の内側に倒れていたら、夕方、イボイノシシなど日中に活動する動物が巣穴に戻ってきたと予想できます。棒が穴の外側に倒れていたら、日が暮れた後、ヤマアラシなど夜行性の動物が巣穴から出て行ったと予想できます。棒が倒れていなかったら、巣穴はしばらく使われていないなーとわかるワケです。原始的ですけど、巣穴にすむ生き物にほとんど影響を与えない、なんて素晴らしい作戦なんでしょう!と自画自賛していたのですが、後々、ほとんど役立たずなことがわかったのです。実は、たとえヤマアラシの住むような巣穴であろうとも、コウモリも一緒に暮らしていることが多かったのです。コウモリは夜になると、穴の出入りが非常に活発で、棒を内側に倒したり、外側に倒したり、暗躍していたのです。自然との知恵比べに勝つのは、なかなか簡単なことではありません。

ついに巣穴発見か!?頼りはセンサーカメラ

ヤマアラシの姿を見つけない限り、撮影は進みません。そこで作戦変更。ハイテク作戦です。動物の動きを感知できる赤外線センサーを小型カメラに取り付けて、無人で撮影できるシステムを6セット用意しました。ヤマアラシが使っていそうな気配のある巣穴のそばに設置して、巣穴の持ち主がヤマアラシであることを確認します。そして、少しでもヤマアラシの存在が確認されたら、巣穴の近くにブラインドを張ってカメラマンが中に隠れて張り込みを続け、ヤマアラシを高感度カメラで撮影しようというのです。連日連夜、徹夜での撮影が始まりました。 こんな苦労の末、ついに巣穴を利用するヤマアラシの姿が!!なんと1匹のみならず、2匹同時に、それも夫婦で仲よく生活する様子が撮影できたのです。とっておきの映像はぜひ番組をご覧下さい。

眠気をさましてくれた生きものたち

ようやくヤマアラシの撮影が進み出したのですが、思わぬことに気がつきました。昼間は暑いなか汗だくになってヤマアラシのさらなる巣穴探し、夜は気温10度近くまで冷え込むなか徹夜での撮影。ホントにいったい、いつ眠るんだろう…。夜行性の動物の撮影は、得てして24時間近く働き続けることになります。撮影や仮眠の合間に食べることだけが楽しみでしたが、それがまた眠気を誘って、困りものでした。でも自然?はうまくできています。眠気をさましてくれたのは、ヤマアラシもびっくりのトゲトゲの生きものたちでした。サバンナの植物は、動物から食べられないために、多くがトゲらだけなんです。寝ぼけ眼で歩いていて、うっかり触りでもしたら、エライことに。痛くてぱっちりと目が覚めてしまいます。地面を見れば毛虫の大行列、つかもうとした木の枝には「毛虫の球」! でも、おかげで「居眠り歩き」することはありませんでした。

おわりとおまけ写真

「夜行性」「巣穴性」「警戒心抜群」。これほど難しい撮影条件がそろった生きものを撮影するのは今回初めてのことでした。これまで、野生のヤマアラシの番組がなかったのがよくわかりました。でも、終わってみれば大成功の撮影でありました。ヤマアラシは普段の警戒心が強いけど、いざとなったらびっくりするほどの荒い気性の持ち主でした。番組では、背中に剣のような針をもったヤマアラシの、肉食獣相手にさえ堂々としている勇敢な姿をたっぷりとご紹介できると思います。名前は知っていても、まだまだ知らない動物たちの素顔。番組を通じて、自然の奥深さを知って頂ければと思います。