27年ぶり!日本の空にトキ復活

第149回「27年ぶり!日本の空にトキ復活」

2009/5/17(日)午後7時30分~

ヨーロッパで日本を代表する鳥として紹介され、ニッポニア・ニッポンと言う学名が付けられたトキが、日本の自然から姿を消して27年。2008年9月、10羽のトキが新潟県佐渡の空に放されました。人の手で増やしてきたトキを野生に戻す計画が始まったのです。昔のように自然の中で子孫を残し、命を引き継いでいけるのか。大きな期待と不安が入り混じる中で、最初の放鳥が行われたのです。NHKでは放鳥からの半年間、環境省の観察チームの協力も得て、トキを密着取材。ハイスピードカメラを駆使し、野生に戻ったトキの暮らしぶりを克明に撮影してきました。中でも注目の映像は、トキの巧みなハンティング。長いくちばしを器用に使い、ドジョウやカエルを見事な早業でついばみ口に放り込む。その映像には、トキのことをよく知る獣医や観察員も驚きの声を上げたほどです。さらに、エサの少ない厳冬期には、これまで食べるとは思われていなかった生きものも食べて生き抜いていたことが、ハイスピードカメラの映像から判明。トキの命をつないだ、生きものの正体にも迫ります。臆病といわれ、慎重に手厚く飼育されてきたトキ。しかし放鳥してみると、車が行きかい人が生活するすぐそばに降り立ち、特別に気にかけることもなく過ごす様子が観察されています。また、猫やカラスなど危害を及ぼす可能性のある動物が現れても、威嚇したり巧みな飛行術で攻撃をかわすなど、人間の予想を覆すたくましさを見せます。そして研究者も地元の人も最も楽しみにしている繁殖シーズンである、春が到来。オスとメスの3羽が群れになり、恋のバトルが見られました。でもメスは、オスの前から姿を消して本州に渡ったり、別のオスの元に現れたりと、予測不能な展開が繰り広げられました。27年ぶりに日本の空を舞ったトキは、自然の中で子孫を残すことは出来るのか?今回の番組では、ハイスピードカメラでの飛翔姿や珍しい水浴びの様子など、世界で初めてとらえた美しいトキの映像も織り交ぜながら、放鳥からの半年間の知られざる生態を紹介。

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取材こぼれ話

新潟県佐渡 編

トキ=臆病で軟弱な鳥?

2008年9月、10羽のトキが、27年ぶりに日本の空を舞いました。国の特別天然記念物のトキ復活の舞台は、新潟県佐渡。東京23区の1.5倍という、とても大きな島です。野生のトキ最後の生息地の佐渡で、トキを再び自然に帰す取り組みの第一歩が踏み出されたのです。 私は2年間にわたって、トキの取材をしてきました。飼育されていた頃のトキといえば、とにかく臆病で神経質な鳥といわれていたんです。人間が近づくだけで、ケージの中を飛び回り、けがをしてしまうこともありました。トキの飼育員さんは、必ず同じ白い作業着に、キャップを後ろ向きにかぶっています。トキに近づく時は、このスタイルじゃないと、トキがビックリしてしまうからなんだそうです。私が取材してきた中で衝撃だったことが、数分飛んだだけで、なんと口を開けて息切れしていたこと。鳥が息切れする様子なんて始めて見ましたから、これは飛ぶ体力がなさそうだ、なんてちょっと不安を感じてしまいました。 佐渡の人たちも思いは一緒でした。大切に大切に飼育されていたトキが突然野に放されて、独力で生き抜けるのか、多くの人が心配していました。

放してビックリ!こんな場所にトキ!

撮影を始める前、私たちは、トキは人を恐れて山間部にこもってしまうのでは?とか、わずか10羽しかいなくて、あちこち自由に飛びまわれるトキを広い佐渡で探すのは相当大変なことになるのでは?とか、取材先からの目撃情報を得て現場に行ったらもういないと言うことを繰り返すのでは?とか、トキの姿をカメラでどこまでとらえることが出来るのか、大きな不安の中で撮影を開始しました。 ところが、佐渡に行ってみてビックリ。え!?こんなところにいるの??と思わず声を上げてしまったほどでした。車がびゅんびゅん通る国道の脇で、何くわぬ顔?でマイペースで田んぼのドジョウを物色していたんです。個体差はありますが、ほとんどのトキは、車や人が行きかっていても、近寄りさえしなければ逃げることはありませんでした。 佐渡の人も、はじめは驚いたものの、今ではちらっと見て素通り。でもこれ「無関心の関心」。つまり、見て見ぬふりです。実は佐渡の人たちは、軽トラの助手席に、散歩のおともに、農作業の七つ道具に、みんなが双眼鏡を持っています。見たい時は遠くから。近くにいたら、あわてず騒がず見て見ぬふり。 そもそも、トキが人を恐れると言われていたのは、昔のトキが、乱獲などが原因で人をひどく恐れるようになり、山奥に隠れて姿を見せなくなったせいだからだと言います。今回、放鳥されたトキを見ていると、多くは新しいすみかとして私たち人間のそばを選んだようです。佐渡の人たちは、もう二度とトキが人を恐れないよう、遠くから見守る姿勢を徹底しているんです。島の人たちは、本当に暖かくトキを見守っていました。私たちも皆さんにならい、農家の庭先に身を隠すテントを設置させてもらったり、車の中で身を潜めたりしながら、トキに気づかれないように最大限の配慮をはらい、撮影を行いました。

トキは、田んぼの名ハンター

放鳥する前の一番の心配事は、トキが自然の中で独力で食べ物を見つけられるのか、そもそも食べるものは足りているのかと言うことでした。でも、トキの食べ物を見つける力は本当にすごいものだったんです。次々と田んぼの生きものを見つけていたので、冬の田んぼにもドジョウやカエルがたくさんいるんだと思い、大学の先生方と掘り返してみましたが、ま〜〜ったく生きものが見つかりませんでした。 トキのハンティングの鍵を握っているのは、どうやら身体の4分の1を占めるなが〜いくちばし。トキのくちばしは、先端まで神経が通っていて、泥の中の生きものでも発見できる高性能センサーの役割をするんです。そこで、望遠レンズを使ってトキがどう食べものを見つけ出して口の中に入れているのか、ディテールの撮影です。でもくちばしでついばんでから口の中に入るまでの動きのすばやいこと。小刻みに動かしながら口の中に放り込むので、止まる瞬間がありません。そこで調達したのが、ハイスピードカメラ。1秒間に300コマも撮影できるカメラに望遠レンズをつけて撮影しました。するとトキのくちばしが生きものを探しだし、口の中に放り込む、見事なワザの一部始終が撮影できました。その巧みさには、トキをよく知る獣医さんや観察員さんも、感嘆の声を上げたほど。さらに、このカメラによって専門家も知らなかったトキの意外な食べものも見つけました。一体何だと思いますか?答えは番組で紹介していますが、トキの意外な勇ましさにビックリすること請け合いです。 でも頑張っているのはトキだけではありません。トキが食べ物に困らないのはやはり佐渡の人たちのおかげでもあるんです。去年から、全島で農薬や化学肥料を減らしたり、作り手のいなくなった田んぼをビオトープに変えたり、生きものを増やす取り組みを行っています。冬も、カエルやドジョウが住めるよう、田んぼから水を抜かない農家も増えています。佐渡の合い言葉は、「トキと共に生きる島、佐渡」!

イケメン、忍び、食いしん坊・・・個性それぞれ

トキ、と一言に言っても、個性が非常に豊か。一日中、半径数百メートル範囲の田んぼで人が通っても堂々と過ごしているトキもいれば、人前には全く姿を見せず、GPSデータでしか生息を確認できない時期のあった忍びのようなトキもいます。すみかに選ぶ場所もそれぞれ。国道が通り、大きなショッピングセンターもある都会で過ごすシティーボーイ、佐渡でも雪が多いことで有名な山の中の集落で過ごすストイックなイケメン(個体番号11番なので、「いい」男、ということで、地元の人はイケメンと呼んでいます)、オスには目もくれず、人にも目もくれず、ひたすらエサとりに没頭する食いしん坊なメス。 一日中田んぼをてくてく歩いていて、猫にもおどおど、カラスには追い立てられる・・・、そんな不器用ながら懸命に生きているトキの様子を見ていると、「国の特別天然記念物」とか「日本を象徴する鳥」という、高貴な印象は吹き飛び、とても親しみがわきました。無理には近づけないので、遠くの車の中で見守っていると、突然、目の前に飛んできて、すぐそばの田んぼで食べ物をとり始めることもありました。一度は、私たちのわずか数メートルのところに歩いてきたかと思ったら、羽繕いを始め、そのまま背中にクチバシをつっこんで寝てしまいました。その時は、私たちの方が緊張し、車を動かすこともできずに、いなくなってくれるまでじーっとするしかありませんでした。うれしくて見つめ続けてしまいましたが。 車の通りの多い国道沿いの木に止まっては、車が行き交うのを眺めているトキ。ねぐらを、人が暮らす集落全体が見渡せる高い木の上にとっているトキ。もしかして、人間が好きなのかな、なんて思ってしまうほど、近くにいます。かつてトキは、人のそばで普通に暮らしていたと言います。トキという鳥は、人と共に生きる鳥なんだな、と、今では実感しています。

トキ復活の意味とは

トキ放鳥から半年。私たちも、専門家や獣医の方もどうして?なぜ?の連続で、誰もがトキの行動に翻弄されっぱなしでした。息切れしていたはずのトキ。なんと、一日で100キロくらい軽く飛べることもわかってきました。ほとんどがうれしい誤算で、トキという鳥のたくましく生きる力を感じさせてくれることばかりでした。 本当に野外に放すべきだったのか、という意見もあります。おなかいっぱいのエサを食べられる狭いケージの中と、死の危険と引き替えに手に入れた無限の大空と、どちらがトキの幸せなのか、という議論もあります。人によって失われた自然の象徴であるトキ。その復活の意味は何なのか。トキが懸命に生きていく姿は、私たちにいろいろなことを問いかけているような気がします。 初めての冬を生き抜くトキの新伝説、どうぞ、ご期待下さい。