3羽?分身!謎の鳥

第127回「3羽?分身!謎の鳥」

2008/11/30(日)午後7時30分~

巣を作り、そこに卵を産んでヒナの世話をする。そんな、鳥にとって当たり前のことを全くしない、驚くべき鳥がいます。「ジュウイチーッ」という特徴的な声で鳴く鳥、その名もジュウイチだ。夏になると繁殖のため、東南アジアなどから日本に渡ってきます。
今回、ジュウイチが育て親に選んだのはオオルリ。巣でかえったジュウイチのヒナは恐るべき行動をとる。なんと、目も開いてないうちに、背中でオオルリのヒナを押して巣の外に落とすのだ。こうして数日で全てのヒナを巣から放り出し、食べ物を独り占めにしてしまう。さらに驚くのはヒナのエサのねだり方。オオルリの何倍にも成長するジュウイチのヒナは、食べ物を独り占めにしても、まだまだ足りません。そこで翼を使って偽のヒナを出現させ、巣の中にたくさんのヒナがいるように見せかける。育て親はまんまとだまされ、能力の限界までエサ運びに追われてしまいます。鳥の世界広しといえども、ジュウイチだけでしか知られていないスーパーテクニックです。
ヒナが違うことにも「分身の術」にも気付かず、律儀に育て続ける育ての親・オオルリ。そして、本当の親を知らずに生きるジュウイチ。富士山ろくに広がる森を舞台に、奇妙な親子のひと夏を、驚きの映像とともに紹介します。

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取材こぼれ話

富士山の森 編

カッコウの仲間「ジュウイチ」 奇妙な生態!

巣を作って、そこに卵を産んで、ヒナの世話をする。これって鳥の常識ですよね。 でも、そんなこともしないで他の鳥に頼って生きる、驚くほどしたたかな鳥がいるんです。 ご存じの方もいらっしゃると思います。カッコウという鳥の仲間です。 カッコウの仲間は、他の鳥の巣に卵を産み込んで育てさせる「托卵(たくらん)」という習性をもっています。卵を産み込まれた巣の主は、そうとは知らずに、よその子を育ててしまいます。驚いたことに、他の鳥の巣で孵(かえ)ったカッコウのヒナは、周りの卵やヒナを次々と落として巣を独占してしまいます。なんとも恐ろしい習性ですが、カッコウの仲間は大きく育つため、こうしなければ生き残ることができないんです。 でも、周りのヒナを落とすのはカッコウの仲間が生き残るための一つの技に過ぎません。今回の主役「ジュウイチ(カッコウの仲間)」は、さらに驚くべき技を繰り出します。ジュウイチのヒナは、育て親にたくさんのエサをもらうために「分身の術」を使うというのです。タイトルにもあるように、1羽のヒナが3羽に分身するんです。そもそもジュウイチなんて鳥、皆さんご存じですか?

ジュウイチってどんな鳥?

今回、謎の鳥「ジュウイチ」を追い求めて、比較的よく見られる場所として知られる、富士山の森で取材をしました。ジュウイチは五月上旬に東南アジアなどから繁殖に訪れる夏鳥です。 まるで、ハヤブサのような精悍な風貌をしています。それにしても「ジュウイチ」なんて、おかしな名前ですよね。実はこの名前、鳴き声から来ているんです。番組を御覧頂くと、「なるほど!」と納得して頂けるかと思いますが、「ジュウイチーッ、ジュウイチーッ!」とけたたましく鳴くんです。一度聞き慣れてしまうと、もうジュウイチとしか聞こえません。 このジュウイチのヒナが繰り出すという「分身の術」とは如何に!その謎に迫ります。

決定的瞬間を捉えるための、3つの武器

1)足 〜とにかく探す〜 「分身の術」の謎を解くために、何をおいてもしなければならないこと。それはジュウイチが托卵した鳥の巣を探すことです。ジュウイチはオオルリやルリビタキ、コルリなど、オスが青い色をした小鳥に托卵することが知られています。自分の卵を託すジュウイチにとっては、「幸せの青い鳥」と言ったところでしょうか。今回、私達はその中でも最も美しいと思われるオオルリをターゲットに選びました。 オオルリは切り立った崖や、沢などの斜面に巣を作ります。オスのさえずりを頼りに、巣がありそうな場所に目星を付けたら、後はひたすら探すのみ。休日返上、根性の見せ所です。しかし富士山の裾に広がる広大な森の中を探すのは、相当な覚悟が必要です。迷ったりすればそれこそ大変。それに、やっとオオルリの巣を見つけたとしても、ジュウイチに托卵されていることなんて、十に一ほどしかありません。雨の中、濃霧の中、探しても探しても空振りの日々が続きました。 そしてある日、何度か見て回った沢の斜面にオオルリの巣らしきものを見つけたんです。中をそうっと覗いてみると、白い卵に混じって、一つだけ大きくて青い卵!ジュウイチの卵です。とうとう見つけました。卵をしっかり確認してから、親鳥に悟られないようにさっと立ち去ります。心臓はドキドキ、バクバク、「よっしゃ〜っ!」思わず雄叫びを上げました。(※心の中で、です。)ヒナが食べられないことを祈るのみ! まぁ、計算通りに行かないのが世の常、番組でも思わぬハプニングが…やオコジョなどの天敵に卵やヒナが食べられないことを祈るのみ! まぁ、計算通りに行かないのが世の常、番組でも思わぬハプニングが…

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2)予測 〜相手を知って効率よく撮影〜 さて、托卵された巣を見つけたはいいものの、これからどうしたものか…。ひとまず考えて、もう一度、遠目から巣をのぞきに行きます。巣は沢の斜面にあるので、その反対側に迷彩の布を張って、遠くから双眼鏡で観察します。でも、親鳥が戻ってくる様子はありません。どうやら、まだ卵を抱いてないようです。オオルリは卵を一日に一つずつ産みます。こうして巣の中の卵が1つ、2つと増えていき、4つや5つになると一斉に卵を抱き始める習性があるそうです。こうすることで、同時にヒナが孵り、親鳥は効率よく子育てができるというわけです。翌日、巣を見に行くと、茶色い色をしたオオルリのメスが卵を抱きはじめていました。今回は運良く、卵を抱き始める前の巣を見つけたんです。 とすると…、ジュウイチの卵が孵るのが、卵を抱き始めてから10〜12日くらいだから、この頃に行けばジュウイチのヒナが孵っているころかな…、などと考えます。上手くいけば、孵ってから数日の間で、ジュウイチのヒナが周りの卵やヒナを落とすはず。 さらに「分身の術」はこのあたりが見頃、巣立ちは…。 カメラマンと撮影スケジュールや方法について話しながら想像はふくらむばかりです。 後はテンやオコジョなどの天敵に卵やヒナが食べられないことを祈るのみ! まぁ、計算通りに行かないのが世の常、番組でも思わぬハプニングが…

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3)機材 〜オドロキの映像を〜 今回、「ヒナがヒナを落とす瞬間」や「分身の術」を撮影するのに活躍したのが小型の固定カメラ。人間への警戒心が強い野生の小鳥を撮影するのには、固定カメラが一番です。鳥は、動かない物への警戒心があまり強くないようです。 「ヒナが ヒナを落とす瞬間」の撮影に大活躍したのが、バッテリー駆動で10時間以上も回り続けるハードディスク記録型の小型ビデオカメラ。孵化してしばらくすると、周りのヒナを落とし始めるジュウイチですが、いつヒナが落ちるかは分かりません。そこで、テープを交換することなく長時間回り続けるため、ヒナや親鳥への影響が少ないハードディスクタイプのカメラが威力を発揮しました。

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そしていよいよ、今回の目玉「分身の術」の撮影です。「分身の術」は、ヒナの近くでみるとその「カラクリ」が分かると言います。そこで、直径4センチほどのサイコロ型に、細長いレンズの付いた超小型ハイビジョンカメラを準備。ヒナから15センチほどの距離にセットしました。巣への影響を最小限に抑えるため、セットするのは1日2回程度が限界です。カメラからケーブルを伸ばして30m離れたモニターで観察します。果たしてどうやって1羽のヒナが3羽に増えるというのでしょうか。番組ではジュウイチの真骨頂「分身の術」の謎が解き明かされます。オドロキの映像をご期待下さい。

かりそめの親子が作り出すドラマ

他の鳥をだまして育てさせるなんてずる賢い、それに周りのヒナを落とすとは何事だと思われる方もいらっしゃると思います。確かに、我々人間の目から見るとずる賢くて、ひどいと感じられる一面もあります。でも育ての親が自分の子どもと思って(?)懸命に育てている姿や、育て親を信じ切って(?)エサをねだるジュウイチのヒナの姿を見ていると、次第にそんな考えが薄れ、巣立ち間際には、心底、かりそめの親子を応援してしまっている自分がいました。他の鳥に育てられるという「宿命」の中で、ヒナは必死に生きているんです。 番組では、自然の厳しさを感じさせる、ある意味残酷な場面を紹介します。しかし、オオルリとジュウイチの奇妙な親子関係には、なぜか感動を誘うものがありました。本当の親子って、いったい何なのでしょうか?取材したディレクター自身も大いに考えさせられました。 人によって感じ方は違うかもしれませんが、番組を通してなにか感じ取って頂けたら幸いです。