鳥が海中を飛んだ!

第077回「鳥が海中を飛んだ!」

2007/11/4(日)午後7時30分~

北海道の北西部に浮かぶ人口400人ほどの小さな島、天売島。毎年春になると、豊かな海の幸をめあてに、100万羽近くの海鳥が繁殖のために訪れる海鳥の楽園です。中でも、60万羽もが集まるウトウは、天売島が世界最大の繁殖地。
ウトウはハトより一回り大きく全身が黒っぽい鳥で、見たところ、それほど特別な鳥には見えません。ところが、ひとたび水に入ると、目にもとまらぬスピードで魚の大群に突っ込み、次々と魚を捕まえます。急浮上に急旋回。自由自在に泳ぎ回り、ときには水深60m以上も潜って、エモノの魚やイカなどを一瞬のうちに飲み込んでいきます。今回、これまでとらえられたことのなかった、この、超高速のウトウの狩りの撮影に挑戦。ウトウが集団で潜って魚を捕る迫力満点の映像を、世界で初めてとらえることに成功しました。翼をはばたかせたその姿は、泳ぐというより、まるで海中を飛んでいるよう。
一方、飛ぶ能力は空中でも優れています。ウトウは、毎朝、魚を捕りに島を離れ、夕方になると帰ってきます。その際、時速60kmで100kmも離れた場所まで飛んで行きます。しかも島に帰ってくるときには、ヒナのために何匹もの魚をくわえたまま飛んできます。
空も水中も見事に飛べる秘密は、体の割に小さな翼にあります。翼が小さいと、なぜ有利なのでしょうか? 美しい天売島の海を舞台に、断崖での子育てや、獲物をめぐるウミネコとのし烈な闘いを交えて、ウトウの水空両用の並外れた飛行能力に、徹底的に迫りました。

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取材こぼれ話

北海道・天売島 編

千載一遇の水中撮影

「水中を泳ぐ鳥をいかに撮影するか?」今回の撮影にあたり、たくさんの方から様々なアドバイスを頂きました。その中で、最も多かったのは、「まず不可能だ」「非常に難しい」という意見でした。理由は、その状況に出会うこと自体が、とても難しいからということでした。実際に撮影に挑戦した私が、もし今後、他の人に聞かれたら、まさしく、同じように答えると思います。 水中を自在に泳ぐウトウの姿を撮影するため、3つの作戦を立てました。 まず、1つめは、海面に漂っているウトウに水中から近づく作戦です。ウトウは、多くの場合、十数羽くらいでかたまって、海面に漂っています。ボートである程度まで近づき、ウトウを驚かさないよう、そこからボートを降りて、泳いでさらに接近します。しかし、ボートから見ると、ただ海面に浮いているように見えるウトウは、実は水中の水かきで水をかいて進んでいます。ですから、いくら水中カメラマンが一生懸命泳いでも、海流に流されて、どんどん離されてしまうのです。やっとのことでうまく近づけても、大きなカメラを抱えたカメラマンを不審に思うのか、すぐに逃げられてしまいました。これでは撮影になりません。 2つ目は、ウトウがやってきそうな浅い水中での待ち伏せ作戦。カメラマンはカメラを構えて水中で待機します。しかし、ウトウがやってきても、なぜか、なかなか潜ってきてくれず、これも失敗。 そして3番目は、魚をとるために大集合している鳥の大群(鳥山)を見つけ、そこに一緒に集まっているウトウを狙うという作戦です。ところが多くの場合、鳥山を見つけてから、ボートで近づいて水中に潜っても、もう、鳥が魚を捕るのが終わってしまっているために、あっという間に鳥山が散ってしまいます。 今回、偶然にも、ほんのすぐ近くで大きな鳥山ができたことがあったため、撮影に成功することができました。でも、チャンスはほんのわずか。来る日も来る日も、静かな海をボートで漂う日々が続きました。 番組では、大きな鳥山に出会ったときの映像をふんだんに紹介しています。限られた取材期間の中で、そのような現場に立ち会えたのは、本当に幸運だったと思います。

ウトウはカメラマン泣かせ

ウトウは、普通に空を飛んでいるところを撮影するにしても、何とも、やっかいな相手なんです。ウトウは、日中の明るい間は、島から遠くの沖の方へ、魚を捕りにでかけています。定期フェリーや小型船から撮影することを試みもましたが、船だと、波の影響やエンジンの振動で映像がゆれてしまいます。これでは、見ている人が船酔い(?)してしまいそうです。 しかたなく、島の港の防波堤や見晴らしの良い海岸などで、望遠レンズをつけて、近くを通過するのを待ちました。しかし、海岸からでは、近くに来たとしても200〜300mくらい離れています。野生動物の撮影に慣れたカメラマンにしても、この距離の生きものを、飛ぶのに合わせて、ピントと方向を追いかけながら撮影するのは、とても神経を使う作業です。 まして、ウトウが魚を口にくわえて島に帰ってくるのは、日が落ちて暗くなり始めてから。明るいときに比べて、ピントを合わせるのは更に難しくなります。しかし、連日、撮影を続けるうちに、カメラマンもコツをつかみ始めました。最終的には、夕景をバックに大挙して島に帰ってくるシーンを、迫力ある映像でとらえることができました。

大活躍の超高感度カメラ

ウトウが島にいる間の、夜の撮影には、超高感度ハイビジョンカメラ(アイアイカメラ)を使いました。このカメラは、人間の目で見えない明るさでも、ちゃんと撮影することができます。特に、朝、飛び立つシーンでは威力を発揮しました。 ウトウは、まだ暗いうちから活動を始めます。早朝、巣が見えるところに行き、この超高感度カメラでのぞくと、巣穴のまわりにいるわいるわ、たくさんのウトウが待機しています。やがて空が白んでくると、次々に飛び立ち始めます。ファインダーをのぞくカメラマンには、ウトウが絶壁を飛び立つ決定的瞬間が見えたことでしょう。でも、カメラの隣で肉眼で観察している私には、残念ながらほとんど見えませんでした。 このカメラは、ヒナの巣立ちの時にも威力を発揮しました。ヒナは、暗闇の中、巣穴から出てきて、自力でガケを降りていきます。照明を当てるわけにはいきません。目星をつけた巣穴に向け、出てくるのをひたすら待ちます。今回、研究者も見たことのない、巣穴から出てきてはばたく練習をするところも撮影することができました。

海鳥の楽園・天売島

天売島は100万羽もの海鳥が子育てにやってくる海鳥の楽園です。ウトウが大群 で島に帰ってくる様子は、何度見ても、感動して見とれてしまうほど、すばらしい光景です。また、たくさんの海鳥が巣を作っている島の西海岸の眺めも、まさに絶景です。生きものの好きな方には、ぜひ訪れていただきたいと思います。