超高速!海を泳ぐアリ

第075回「超高速!海を泳ぐアリ」

2007/10/21(日)午後7時30分~

オーストラリア北部の海辺で見つかり、新種とわかったアリ、ウミトゲアリ。海上を泳ぎ、海底に巣を作る世界唯一の驚異の行動を、最新の特殊機材で徹底解明しました。
世界最大のサンゴ礁グレートバリアリーフで有名なオーストラリア北部。その海辺に暮らすウミトゲアリは、アリの常識を根底から覆す驚きの生態を持っています。普通アリは泳ぐことが出来ず、水中では呼吸が出来ないため、水が大の苦手。ところがウミトゲアリの巣があるのは何と海の底。巧みな巣作りによって、海底に空気を保ったままの部屋を持っていたのです。その精巧な巣はまるで海底都市さながら。このような生態を持つアリは他に例がなく、世界中の昆虫学者を驚かせました。
さらに、信じられないことに、ウミトゲアリは海の上を泳ぎ回ることもできます。そのスピードは陸上よりも速く、肉眼では追えないほど。いったいどうやって、それほど速く水の上を移動できるのか?今回、世界初となるNHKの「ハイスピード虫の眼カメラ」を駆使して、この信じられない動きのメカニズムを徹底解明。泡をまとって波に乗る驚きのテクニックや、自由自在な動きを可能にする泳法の秘密を明らかにしました。圧巻は、水中からジャンプして襲いかかる魚と、ウミトゲアリが対決する瞬間。世界で初めて撮影された映像の数々から驚異の生態の秘められた謎を解き明かしました。

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取材こぼれ話

オーストラリア 編

海を疾走するアリ!

海の上を矢のような速さで走ることができるアリがいる・・・。 こんな話を聞いたら、信じられますか?でも、本当にいるんです!そのアリの名はウミトゲアリ。オーストラリアで発見された、世界で唯一海の底に巣を作る新種のアリです。 ウミトゲアリは、確かに目の前で聞きしに勝る技を見せてくれました。瞬きをするほどの一瞬のうちに、水の上を黒い弾丸のように滑っていったのです。しかし、あまりに速すぎてよく見えない・・・。 そこで、今回、初登場の最新型・虫の目ハイスピードカメラを使って、その泳ぎの秘密を明らかにしました。このカメラで撮影したウミトゲアリの泳ぎは、まさに驚異の連続!まるでサーフィンのように華麗に波に乗りながら海の上を駆け抜けていく様子が鮮明に記録されていました。あまりにも意外な泳ぎ方に研究者も声を失うほど。世界で初めて、ウミトゲアリの泳ぐ様子を詳細に明らかにする、驚きの映像が撮影されたのです。

目指す相手が、見え・・・ません!?

そのスーパーヒーローのようなアリに会うために、9月、オーストラリア北東部の海辺に向かいました。ところが・・・。 いざ世にも不思議なアリを求めてはるばるやってきたはいいものの、すぐにこれは恐ろしく厄介な撮影であることに気がつきました。まず、肝心の撮影する相手が見つからないのです。マングローブ林のぬかるんだ泥の中をえっちらおっちら歩いていって、巣の場所までやって来たものの、目指すウミトゲアリはどこにいるのか全くわかりません。わざわざ『ほら、ここにいるでしょ!』と言われてさえ、まったく目に入りません。 ・・・そう、相手が小さすぎるのです。ウミトゲアリは体長わずか7ミリ。日本でそこら辺にいるアリの大きさと変わりません。立ったままの状態では相手が小さすぎて目に入らないのです。そこでしゃがんで探すことにしたのですが、・・・やっぱり分かりません。ウミトゲアリは小さい上に非常にすばしこく、泥や木の根の陰をものすごいスピードで歩き回るからです。 しばらくして目が慣れてくると、ようやく時々視界を横切る小さな黒い点こそが求めていたウミトゲアリだと分かりましたが、今度は逆に『・・・・こんなの、一体どうやって撮影するんだ!?』とすっかり意気消沈してしまいました。 結果的に世界初となる驚きの映像の数々が捉えられたのは、地元の研究者を初めとする様々な方々の協力があってのこと。本当にラッキーでした。

世界最恐(?)の吸血鬼

今回、ウミトゲアリの撮影するにあたって、過去に経験したことのない最大の強敵が待ち受けていました。実はウミトゲアリが住むオーストラリアのマングローブ林には強烈な「吸血生物」が潜んでいる、というのです。我々自然番組スタッフには、じつは世界中どこへいってもこうした吸血生物との戦いが待ち受けています。ジャングルには蚊やヒル、砂漠だったらダニやノミといった、できれば会いたくない生き物たちももれなく大勢待っているんです。 撮影にあたって、今回訪れる場所には「吸血バエ」がいるという噂を聞きました。以前その吸血生物の被害を経験したことのある先輩曰く、『世界中いろんな所にいってきたが、あそこのヤツは世界最悪』だそうです。行く前からかなり脅されていたため、今回は全身を覆うネット状の防護服を持って行きました。頭のてっぺんから脚まで、すっぽりと覆うタイプです。これならさすがに大丈夫だろう、と思っていました。 ところが!さすが世界最恐(?)の吸血鬼、相手はその予想を大きく裏切ってくれました。相手の正体は現地で『サンドフライ』と呼ばれるおそらくブヨの仲間。行って初めて分かったのですが、大きさがほんの1ミリもないくらいなんです。そのため全身をくまなく防護服で覆っていようが、わずかな編み目のすき間からどんどん入ってきてしまいます。あまりに小さすぎて姿に気がつかず、最初は噛まれている認識すらありませんでした。しかし、撮影を始めて数時間で、全身が妙にむずがゆくなったため、何度もよ〜く手足を観察すると、針でつついたほどの大きさの虫がたくさんたかり、なんと「ガブリ」と噛みついて、血をすすっているではありませんか!体は小さいのに、気の弱い人ならそのまま気分が悪くなって倒れてしまいそうな凶悪な攻撃です。まさに吸血鬼。 防護服もダメ、かといって虫除けスプレーなども一切効果がなく、撮影中はもう血を吸われ放題。あっという間に、片腕だけでも200や300ではきかないほど、噛まれた跡だらけ。 それから、さらにもう1種類、撮影地には恐ろしい敵がいました。「アリ界のギャング」こと、ツムギアリです。名前のとおり木の上に葉っぱを紡ぎ合わせた巣を作るこのアリは、緑色のきれいな見た目とは違い、トンでもなく気性が荒いんです。撮影場所へ歩いていく時、ちょうど肩や腕くらいの高さにある彼らの巣に気付かずに、うっかり触ってしまうことがあります。するとツムギアリ達は次々と巣から飛び出してきて襲いかかり、強力なアゴで噛みつくんです。その上、ダメ押しのようにお尻から蟻酸(ぎさん)という酸を吹きかけるという強烈さ。それが数百匹もの集団で襲いかかるのですから、たまったものではありません。その攻撃には屈強な大男でも悲鳴を上げると言われるのもよく分かります。 こうして、色々な生きものに攻撃されながらの撮影。終えたころには、全身の皮膚が夏ミカンの皮のようにボコボコになってしまいました・・・。

ウミトゲアリ・地元での評判は?

ロケ中オーストラリアの田舎町を、大量の撮影機材を抱えてウロウロしていたスタッフは非常に目立ったようです。地元の陽気なオーストラリア人たちがよく声をかけてきてくれました。そこでは毎度のごとく以下のような会話が行われました。 オーストラリア人 『やあ!君ら日本人かい?何の撮影をしてるの?』 ──アリの撮影をしています。 『ワオ!そいつはスゴ・・・え?何の撮影してるって?』 ──アリです。 『アリって、・・・あの虫のアリかい?』 ──そうです。 『おいおい、日本からわざわざやって来てそんなもの撮るわけないだろ。そりゃなんかの冗談だよね?』 というような会話を何度もしていました。そのたびに「いや、アリといっても海の中に住む非常に珍しいアリなんだ」と説明しましたが、皆さん全然信じてくれません。 これほど珍しくて面白い生きものなのに、地元の人でさえその存在をまったく知らないんです。『海にアリなんか住めるわけがない』という先入観もあるのかもしれませんが。 これほどに知名度が低いと、ちょっと心配なこともあります。先ほどの吸血バエの方がよほど有名なので、下手をすれば「あんな害虫の住むマングローブ林なんか伐採してしまえ」という事になってしまうかも知れません。そんな事にならないよう祈らずにはいられません。

おまけ:アリのうんちく (アリビア)

世の中には、おそらく知っていても生きていく上では全く役に立たないであろう知識がたくさんあります。でも、そんな知識を『時間と記憶容量の無駄』と切って捨てていては、人生が全然味気ないものになるでしょう。むしろ無駄と思えるモノを面白がる余裕こそが人間を進歩させてきたのかも知れません。 ・・なんて。とってつけた前置きはさておき、我々自然番組のスタッフは、程度の差こそあれ、こうした一見くだらないことを知るのが大好きです。好奇心こそが番組の原動力!と私は勝手に思っております。 自然相手の撮影は、いつ何が起こるか分からないため、1日中、気を張りつめてカメラを構えているわけですが、そうして決定的瞬間を待っている間ついつい色々な疑問が生まれます。その疑問を元に観察、実験した結果、思わぬ発見につながることもあります。 今回は、相手は非常に珍しいアリで、詳しい生態がまだまだ謎に包まれていることもあり、様々な実験・観察に挑戦しました。 まず「泳ぐウミトゲアリを真下から観察したらどうなるか?」 この思いつきから、研究者も知らなかった事実(ウミトゲアリが泡によって水から浮いたまま移動している)をつかむことができました。 それから「ウミトゲアリは砂糖が好きだろうか?」 私は昔からアリといえば砂糖という連想をしてしまうのですが、皆さんはいかがですか?たぶんアニメ「トムとジェリー」にも砂糖を食べに家の中まで行列でやってくるアリの話があった気がするので、これはきっとアリにとって万国共通の習性に違いないはずです。 試しにロケ現場近くの空き地にいたアリ(Meatantといって虫の死骸などを食べる、ごく一般的なアリ)の巣の周りに砂糖をまいてみました。すると・・・、やはり、あっという間にアリ達が群がってきました!ほかにも、いろんな種類のアリが次々に集まってきます。さすが砂糖!人家から遠く離れ、おそらく生まれてこの方砂糖など味わったことのないはずのアリに対しても絶大な効力を発揮します。 では、肝心のウミトゲアリ君達は砂糖好きなのか?そう思ってウミトゲアリの巣の周りにも砂糖をまいてみます。さあ、ウミトゲアリ君カモ〜ン! ・・・ところが、いつまでたってもまったく興味を示しません。砂糖の塊の上に乗ってもまったく興味なしでした。う〜ん、いつも塩水に囲まれているからなんでしょうか?