ハチになりたかった鳥

第063回「ハチになりたかった鳥」

2007/7/22(日)午後7時30分~

キラキラと輝く羽から密林の宝石と呼ばれるハチドリ。コスタリカに暮らすこの鳥はその名の通り多くの点が虫のハチとそっくり。体のサイズはスズメバチとほぼ同じか、それを一回り大きくした程度で鳥類最小です。食べ物もミツバチと同じ花の蜜。ブンブンブンとハチのような羽音を出して花の周りを飛び回ります。しかも、その飛翔を最新の超スローカメラで詳しく分析すると、鳥の中で唯一、ハチの飛翔技を取り入れ飛んでいる事も明らかに。ハチと同じ方法で翼を動かし空中に静止できるのです。ハチドリはこうした独特の飛翔技を駆使して密林を花から花へ高速で自在に飛び回っていました。ハチのように生きることで、密林で大成功していたのです。ところが、その生活ぶりをよく見ると、ハチドリはいつもケンカばかりしていることも明らかになってきます。オス、メスも入り乱れ、時に蹴り合い、時にくちばしを突き出して激しくケンカする。ハチドリはいったいなぜ、いつも激しくケンカしているのか? 実は鳥がハチのように生きるためには過酷な制約がありました。ケンカは避けて通れない運命にあったのです。
驚異の飛翔技、圧巻のケンカシーンなど、超スローカメラがとらえた珠玉のスクープ映像の数々を駆使して、ハチになりたかった鳥の光と陰のドラマに迫りました。

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取材こぼれ話

コスタリカ・プエルトビエホ2 編

ハチドリとの出会い  〜番組は「バシリスク」から誕生した〜

ハチドリを主役とした番組「ハチになりたかった鳥」はどうやって誕生したのか? 実は企画のきっかけは今年1月7日に放送した「水上を走る!謎のバシリスク」のロケ現場でした。 話は去年の10月にさかのぼります。その頃、私はコスタリカのジャングルの水辺に立っていました。水上を走るバシリスクの暮らしぶりを日夜、観察していたのです。 それはある日の昼下がり、午後1時頃の事だったと思います。私は木陰にジッとして双眼鏡で木にいるバシリスクを観察していました。「あのバシリスクはこれから何をするんだろう?」などと思いながらバシリスク見つめていました。 すると突然、背後から嫌な音が聞こえます。「ブーン、ブーン」。巨大な虫の羽音です。巨大なハチに違いありません。音はどんどん近づいてきます。それまで全神経をバシリスクに集中させていましたが、今度は一気に背中側に全神経を集中させました。イヤーな汗がどんどんしみ出てきます。刺されたらたまりません。嫌な音の主は私から離れようとしません。怖くて怖くて振り返る事すら出来ませんでした。 逃げる事も出来ずに固まる私のそばに、しばらくすると地元ガイドのポンピリオさんが近づいてきました。笑顔で後ろを見ろと言います。そっと振り向く私。目を疑いました。ブンブンブンと飛ぶその正体は何と鳥でした。視線の先にいたのはハチではなくハチドリだったのです。スズメバチのような音で飛ぶ鳥がいる? 目の前の現実を受け入れるのにかなり時間がかかりました。ハチドリが「ハチ」ドリと呼ばれるワケをこの恐怖体験によって初めて理解できたのです。 音だけで私を恐怖のどん底にまで陥れたハチドリ。この怪しい鳥は絶対に面白い番組になる!次の番組はこれだ!!!水辺のほとりで私はそう確信したのです。

ハチドリが生きる密林は風変わりな生きものの宝庫

今年4月、およそ半年ぶりにコスタリカのプエルト・ビエホを訪れました。相変わらず湿気でムンムンとするジャングルが広がります。ハチドリとの出会いを求めて私たち撮影スタッフは毎日、ジャングルやその周辺を歩き回りました。するとハチドリではありませんが、不可思議な姿をした生きもの達(特に虫)が続々と私たちを出迎えてくれたのです。 ハチドリの話に入る前にそんな生きものたちを紹介します。 まず地面から現れたのはヤスデ(?)。10センチ以上の巨大ヤスデがのそのそと歩いていたんです。これがなかなかの気持ち悪さ。ガイドのポンピリオさんがコップに入れて見せてくれましたが、足が連続的にうごめく様を眺めていると気が遠くなるような気がしました。ジャングルの土壌を作るという大切な役割を担っている大切な虫なのでしょうが、どうしても生理的に愛せません。早々と解放し、ジャングルの森に消えて頂きました。 今度は葉の裏に何かいるとポンピリオさん。葉の裏を覗くと今度はコウモリが沢山いました。テントコウモリと呼ばれ、いつも葉の裏で休んでいるとの事。一瞬ギョッとしましたが、こちらはよく見ると意外にかわいい顔。ヤスデよりはかなり親しみが持てました。 更に葉っぱの上で驚きの姿のバッタを発見しました。コケが体中にくっついたバッタです。でもこれよく見るとコケが付着しているわけではありません。こうしたデザインのバッタなんです。動物カメラマンの嶋田忠さん曰く「コケイロバッタ」と言うそうです。一度、木にくっついたらもう見つける事は出来ません。周りの風景の中に完全にとけ込んでしまいます。 私たちが宿泊したホテルもジャングルのすぐそば。ある夜、近くの森で感動的な出会いもありました。ゾウカブトです! 子供の頃、茨城の家の周りでカブトムシやクワガタムシをいつも捕まえていた私にとって、ゾウカブトは神様のような存在です。子供の頃、図鑑を見ていつも憧れていた存在だったんです(今みたいにお店で売っていません)。そんなカブトムシを初めて見つけてしまった感動はそれは大きなものでした。ズッシリとした重量感のある姿にしばし見とれてしまいました。 ハチドリが暮らすコスタリカのジャングル。そこは様々な姿形をした生きものたちが暮らす豊かな世界なんです。

密林の宝石ハチドリはホントにホントにハチそっくり!!

ジャングルをハチのような音を響かせ自在に飛び回るハチドリ。10センチ前後の非常に小さな鳥で、別名「密林の宝石」とも呼ばれています。あるものはエメラルドのような緑色に、あるものはサファイアの様な紫色に輝きます。その色合いは光の当たる角度で微妙に変化し、本当に宝石の様な美しい鳥なんです。 でも、このハチドリを「美しい」の一言だけで言い表すことはできません。美しい一方で、とにかくハチみたいな鳥です。 第一に羽音。去年10月、私を恐怖に落とし入れたあの羽音はどう聞いてもハチです。ハトもスズメもカラスも、どんな鳥だって真似できないハチドリだけの独特な羽ばたき音です。 しかも食べ物もハチ(ミツバチなど)と同じ。なんと花の蜜です! だからハチドリがいるのは、いつも花のそば。蜜を求めて花の周りをブンブンブンと飛び回る姿は「ちょっと大きめのハチ」そのものなんです。 「一体どうして、ハチドリはハチみたいな鳥なのか?」 この疑問の中にこそ今回の番組の主題があると考えました。ハチドリとハチとの類似点に注目する事で、これまでにない新しい切り口のハチドリの番組が出来るのではないかと考えたわけです。

2台の「超スローカメラ」でハチドリに挑む

しかしそんなハチドリを目の前に私は大いに悩みました。木に止まる美しいハチドリを撮影するのは簡単です。でも飛んでいる所を撮影するのが難しいんです! タンチョウやワシなど大型の鳥が優雅にゆったりと飛ぶのとは訳が違います。10センチ前後の小鳥が猛スピードで飛ぶんです。その飛翔速度は最高100キロ近くに達するといいます。ハチのような羽音は聞こえても肝心の姿が全く見えません。たとえ画面に映ったとしても、1秒に満たない一瞬の出来事。スローにしてもブレブレです。翼の動きなんて全く見えないんです。 そこで用意したのが超スローカメラ(別名ハイスピードカメラ)です。バシリスクが水の上を走るメカニズムを解析した時にも使用したカメラです。バシリスクの時と同じウルトラハイスピードカメラをジャングルに持ち込みました。100万分の1秒まで撮影できるかなり優れもののカメラです。でも、かなり素早いハチドリを相手に1台のカメラでは不安になるのも正直なところ。そこで今回はもう一台、別の超スローカメラを用意しました。2台の超スローカメラでハチドリの撮影に挑みました。 実質的な撮影期間はおよそ20日間。期間中、ひたすらハチドリとの睨めっこが続きました。通常撮影用のハイビジョンカメラを2台。そして先ほどの超スローカメラを2台。合計4台のカメラをフル回転させてハチドリの瞬間、瞬間の素早い動きを狙いました。 その結果、撮影できた映像は超スローカメラだけで700カット以上! 飛翔中に垣間見えるアクロバットの様な動き。更には激しいケンカ、オシッコ、空中での虫食いなど、これまで誰も見た事のないようなハチドリの意外な行動の数々を記録することができました。どれもが一瞬の出来事で通常のカメラ撮影では絶対に見えない動きです。専門家も驚くスクープ映像が沢山、撮影出来ました。 驚きの映像は是非放送を楽しみにして下さい!!

ハチドリはある意味で究極の鳥

「ハチドリは何故、ハチのような姿になったのか?」 編集を終えた今、コスタリカを飛び交うハチドリの事を思うと、とにかく進化の面白さを感じずにはいられません。 きっと全ての事は、数千万年前のある時、ハチドリの祖先が花の蜜を食べ物にしようとした事から始まったのではないか、と想像されます。虫や種などではなく「花の蜜を食べ物にする」という事が鳥の体に様々な進化を促し、気がつけば今のハチドリのような姿になっていたというわけです。ハチのような鳥になったハチドリは特殊な飛翔技術を身につけました。独特の方法で翼を動かし、空中に停止(ホバリング)することもできます。バックも、横移動も、急上昇も自由自在です。他の鳥には決してマネできない方法で素早く飛べるハチドリはある意味で「究極の鳥」になったと見る事ができると思います。 その結果今、ハチドリは南米から北米にかけて300種以上が暮らし大繁栄しています。コスタリカでもハチドリはジャングルを飛び出し、町中などあらゆる場所に進出し暮らしています。究極の飛行技術がハチドリ成功の一因になったのはまず間違いありません。 でも実は、こうした究極の飛行技術を身につける為にハチドリは大きな代償を払ってもいました。詳細は是非とも番組を見てもらいたいですが、ハチドリは様々な事を切り捨てることで、その見返りとして究極の飛行技術を身につけたと見る事が出来るのです。 ハチのような鳥になり成功したハチドリの陰にひそむ悲哀とはどんなものか? 例えばペンギンは泳ぎのスペシャリストとなる為、(その意志にかかわらず結果的に)飛ぶ事を捨てました。ダチョウは走りのスペシャリストとなる為、やはり飛ぶ事を捨てました。では、逆に飛翔のスペシャリストになる為にハチドリはどんな事を犠牲にしたのか? この番組を通して進化のロマン、面白さを感じて頂ければ幸いです。