知床 ハンターたちの攻防戦

第045回「知床 ハンターたちの攻防戦」

2007/3/11(日)午後7時30分~

ヒグマが川の中で駆け回り、翼を広げると2.5メートルにもなるオオワシが水面を睨み付けています。そのおこぼれを虎視眈々(こしたんたん)と狙うキタキツネ。世界自然遺産の地、北海道知床には、他の動物を襲うハンターたちがたくさんいます。ハンターたちの狙いは川をのぼってくるサケ。知床には夏から秋にかけて2000万匹ものサケがやって来ます。ハンターたちはサケを巡り、昼夜を問わず激しい戦いを繰り広げているのです。しかし、知床の川は森に包み込まれ、月や星の明かりも届かない闇の世界。NHKでは、完全な暗闇でも撮影できる特殊なカメラを使用し、これまで知られていなかった夜のハンターたちの攻防を記録することに成功しました。夜のヒグマは耳と鼻を駆使した慎重な狩りを行い、昼とは全く違う姿を見せました。さらに、生息数わずか120羽という巨大なシマフクロウが現れます。その鋭い爪で全長80センチ、重さ4キロものサケを片足で引きずりあげるのです。そこにキタキツネが現れ、シマフクロウとサケを巡って対峙する…。夜の知床には、私たちの予想をはるかに超えたドラマが展開されていました。知床の森と川を舞台にしのぎを削るハンターたちの驚きの姿を紹介します。

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取材こぼれ話

知床半島 編

世界自然遺産・知床

北海道知床。 ディレクターの私がこの地を訪れるのは、学生の時以来なのでおよそ10年ぶりになります。当時は1週間で北海道を1周するという強行旅行だったので、ほとんど通り過ぎただけという感じでした。 今回、腰を据えてじっくりと周囲を見てみると、やっぱり知床はすごい。「豊かな自然」という常套句がはまりすぎるぐらいぴったりなんです。オオワシやシマフクロウといった天然記念物がたくさんいるうえに、ヒグマやキタキツネがうろうろ。ただ、関西育ちの私には、寒さだけはこたえましたが…。

知床の名ハンター

今回の番組のIカメラマンは、知床在住の方。もう30年に渡って、毎日のように知床を撮り続けているんです。裏を返せば、知床にはそれだけたくさんの撮影対象があるということ。普段はとっても温厚で、無類の酒好き?なのに、カメラを構えると様子は一変。それこそ、眼差しはハンターそのもの。なかでも一番驚嘆したのが、生きものを見つける「目」です。 昼。海岸線で車を運転しながら、 Iカメラマン「オジロワシのつがいが獲物を探してますね」 ディレクター「えっ、オジロワシ!!どこ…?」 夜。ロケ地についた途端、 Iカメラマン「今日もシマフクロウが同じ木に止まってますね」 ディレクター「そもそも真っ暗で何も見えませんが…」 Iカメラマンの感覚に驚くべきなのか、私の鈍感さを嘆けばよいのか…。 きっと前者に違いないと、今でも私は信じています。 知床の頂点に立つハンターって、実はIカメラマンなのかも知れません。

秘密兵器登場

今回の撮影で一番狙っていたのが、夜の川にサケを目当てに集まってくるハンターたち。秋から冬は天候が不安定で、月や星が出ることも少ないうえ、知床の川は、奥深い森に包まれ、その明かりも届きません。いかにして、ありのままの夜の世界を撮影するか。そこで使用したのがアイアイIRカメラ(高感度赤外線カメラ)です。人間や動物の目には見えない赤外線ライトを当てると、白黒ではありますが、真っ暗な中でも撮影することが出来るんです。この秘密兵器を使って、知られざる世界の撮影に挑みました。

知られざる闇夜の世界 撮影成功!

真っ暗な中、一番恐いのはヒグマです。川の水音にかき消され、近づいてくる音に気づかない可能性もあります。そこで夜の撮影は、全て車から行うことにしました。屋根にカメラを取り付け、車内でモニターするんです。 ところがここで問題が…。動物が出てきたら即座に撮影を始めなければなりません。 となると車のサンルーフは開けっ放しにする必要があります。12月ともなると、外気温はマイナス10℃近くまで下がる日もあります。まだ動物が現れてくれれば、寒さも気にならないですが、5時間粘ってエゾシカが出てきただけなんてこともありました。番組の中に登場する夜のヒグマやシマフクロウたちの狩りは、カイロを体中に貼りまくり、鼻水をたらしながら粘った努力の賜物です。ぜひご期待下さい。

その時、地震がやってきた

そういえば、撮影中にこんなこともありました。夜に河口近くで撮影していたときのこと。携帯に番組デスクから着信が… 『今、どこにいる?』「河口で撮影しています」『やばいぞ、津波が来る!』「???」 一体何のことやら訳が分かりません。 聞けば、千島列島周辺で地震があり、あと30分ほどで知床に津波が到達すると言うんです。これには相当焦りました。暗闇の中、大急ぎで機材を撤収し、高台に移動。町民の方々も続々と集まってきます。せっかく高感度赤外線カメラがあるので、津波が襲ってきたときのことを考え、海岸方向にカメラをセットし、収録しました。結局、幸いなことに大きな津波はやってこず、事なきをえました。帰って念のためにテープを見てみると、真っ黒。どうやら焦って配線を間違えていたようです。津波がこなくて、本当に良かった。

最後に…

今回の番組は、サケたちを巡って攻防を繰り広げるハンターたちの新伝説です。サケは長い海洋生活を終え、子孫を残すためだけに川を遡ります。体の半分以上が水から出ている状態でも、必死に泳ぎます。彼らをここまで突き動かすものは一体何なのでしょうか。「サケは産卵のために生まれた川にかえる」、当たり前のように知られていることですが、自分の目でその姿を見ると、愚直なまでのひたむきさに大きな感動を覚えました。このサケたちが、知床の自然を形作っていることは間違いありません。ハンターたちの攻防がずっと続くような場所であって欲しい、そう願わずにはいられません。