鳥が凍った?ヤマセミ 厳冬のダイビング

第038回「鳥が凍った?ヤマセミ 厳冬のダイビング」

2007/1/21(日)午後7時30分~

渓流に棲み、白と黒の鹿の子模様が上品な鳥、ヤマセミ。流れに飛び込んで魚を獲る水辺のハンターです。北海道の清流・千歳川の冬を舞台に、厳冬を生き抜くヤマセミを追いました。
北海道の冬は厳しいものです。気温は氷点下20度にまで下がり、空気中の水蒸気さえ凍りつきます。そんな酷寒の中、ヤマセミは川辺の木に止まり、ひたすら魚の動きを待ちつづけます。嘴からは、いつしかツララが垂れています。そして、ようやく魚を見つけると、凍えそうな川に果敢に飛び込んで獲物を捕えるのです。
夏の千歳川には、ヤマセミの仲間のカワセミも棲んでいます。同じく水辺のハンターですが、ヤマセミよりも小型で、あでやかな色合いの鳥です。ところが、カワセミは、厳しい北海道の冬を避けて、秋には南へ渡ってしまいます。カワセミの暮らせない厳冬・北海道。なぜヤマセミは暮らしていけるのでしょうか?その謎を追うと、激流に飛び込んで魚を捕える、ヤマセミの豪快な狩りの特徴が見えてきます。水中映像や高速度シャッター映像を駆使して、ヤマセミの知られざる狩りのワザを解明。
冬を乗り越えたヤマセミに、新しい暮らしが待っていました。南に渡らず、北海道の冬の厳しさに敢えて耐えたのも、新生活のためだったんです。

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取材こぼれ話

北海道・千歳川 編

今回の「ダーウィンが来た!」。撮影を始めたのは、一年前の一月でした。以下は、ある日の撮影現場の寸景です。

清流の狩人 ヤマセミ

朝6時40分。森のかなたが赤く色づき始めた。夜明けは近い。1月下旬、厳冬の北海道。千歳川を見下ろす崖の上でヤマセミの出現を待っている。早朝、ヤマセミは、川の真ん中を川筋に沿って飛ぶことがある。その様子を、崖の上から撮影しようというわけだ。 「ヤマセミ」といっても、ミンミン鳴く虫の仲間ではない。れっきとした野鳥。カワセミの仲間だ。「水辺の宝石」と呼ばれるカワセミに比べて知名度は低いが、80円切手に描かれた鳥、といえば、野鳥ファンならずともお分かりいただけるだろうか。 ヤマセミもカワセミも川辺に棲む鳥であるが、カワセミが主に川の下流や池など、開けた水辺に棲むのに対し、ヤマセミの方は山あいの渓流を好む。大きさも、カワセミがスズメよりやや大きい程度なのに対し、ヤマセミの方はハトぐらいある。 今回の番組の見所の一つは、ヤマセミのハンティングだ。大きなヤマセミが流れに飛び込んで魚を捕らえる姿は、迫力満点だ。その様子を、水の上と水中の両方から狙う。

舞台は北海道・千歳川

ヤマセミが棲む川は全国にある。その中で、なぜ北海道の千歳川を撮影地に選んだのか。実は、千歳川の中流には、ヤマセミとカワセミの両方が見られる地域がある。川の上流部に住むヤマセミと、中流から下流に住むカワセミの住みかが、そこでは重なっているのだ。しかし、千歳川を選んだ理由はそれだけではない。 北海道のカワセミは夏が終わると暖かな地方に渡ってしまう。ところが、ヤマセミの方は、冬も北海道に残るのである。ヤマセミが、厳しい冬の北海道に居残るのは、なぜなのだろうか?今回の「ダーウィンが来た!」は、そのナゾ解きがテーマである。 魚を獲って暮らすヤマセミ。川が氷結してしまっては生きていくことはできない。幸い、千歳川は、真冬でも凍ることがない。これが、北海道の川の中でも千歳川を舞台に選んだ理由のひとつである。

厳冬の撮影

ヤマセミが特に盛んに魚を獲るのは、朝と夕方。夜、休んでいた場所から、魚をとる場所まで、川筋をまっしぐらに飛んでいくところを撮影する、というのが我々の狙いだ。 しかし、相手は野生の鳥。中々思うようには飛んでくれない。川岸ぎりぎりを飛んだり、思わぬ方向に逸れたり。川ではなく、森を越えていってしまうこともある。我々が待っている地点からヤマセミの飛翔を撮れるチャンスは、ひと朝に一度か二度。全くチャンスに恵まれない日も少なくない。 7時過ぎ。森の向こうに日が昇り始めた。空は澄みきっている。こんな日は、雪や曇りの日よりもかえって冷え込みがきつくなる。氷点下二十度を下回ることも珍しくはない。川からしきりに霧が上っている。冷たい川の水よりも、大気の方がもっと冷たいため、水蒸気が冷やされて霧になるのだ。 その霧が木の枝にぶつかると、凍り付いて、木々を白く覆う。「霧氷」と呼ばれる現象だ。さらには、空気中の水蒸気が凍り付いて、きらきらと光ることもある。ダイヤモンドダストと呼ばれ、特に冷え込みがきつくて、しかも、よく晴れた朝にだけ見られる。

小さな一歩を積み重ねて

7時半。ヤマセミはまだ現れない。 その代わり、向こう岸の斜面にキツネが現れた。皮膚病が蔓延したため数が減ったといわれる北海道のキツネだが、少し回復し始めたのだろうか。ふさふさと暖かそうな毛並みのキツネだった。 8時になった。ヤマセミはとうとう現れなかった。どうやら、別のルートを使ったようだ。崖の上からの飛翔の撮影は、今朝はあきらめることにした。 機材を車に載せ、ヤマセミが魚とりによく利用する付近を目指して移動する。 毎朝、毎朝、この繰り返し。しかし、やがていつかは、ヤマセミが望みのルートを飛んでくれて、その姿をカメラに収めることに成功する朝がくるだろう。その時、番組は、完成に一歩近づく。それは、小さな一歩には違いない。ヤマセミが飛ぶ姿は、珍しい生態やスクープ映像では全くないし、大迫力の映像でもないからだ。でも、そうした小さな一歩の積み重ねがあってこそ、スクープ映像が生きてくるのである。